インド北東部に位置するアルナーチャル・プラデーシュ州のタワン県、西カメン県、そして地続きの山岳国境を隔てたブータン東部のサクテン、メラ地区は、両国の中でも開発の遅れた辺境地域である。その主たる住民であるインド側のモンパ、ブータン側のブロクパは類似の文化を共有し、民族的にも近縁関係にあるが、いずれもそれぞれの帰属する国家の中では少数派の集団である。 1959年のダライ・ラマ14世のインド亡命、それに続く1962年の中印国境紛争は、チベットとの文化的、経済的関係が濃厚であった両地域をそれぞれの国家との関係強化へと向かわせる大きな転換点となった。それから半世紀経ち、両地域とも、近年になって外国人ツーリストの入域禁止が緩和され、逆に観光開発の対象地として注目されはじめている。本発表では、インド、ブータンの国境地帯に住むモンパとブロクパとが迎えつつある近代化の諸相を始まったばかりのツーリズムを軸に考察する。