場の科学
Online ISSN : 2434-3766
'Anshin' beyond Safety: 予防原則と製品の観点から安全・安心の設計
吉田 耕太郎阿部 徹前田 菜美中山 敬太田中 康之
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キーワード: 鼎談
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2023 年 3 巻 1 号 p. 4-25

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抄録
鼎談の概要 1.安全・安心研究分科会の取り組みと「予防原則」の扱い 当学会では、安心・安全に係る社会システムを考える際に、「Safety」の安全に対して、安心には、「Anshin」という表記を使っている。持続可能性のターゲットとイノベーションのターゲットが異なるからである。特に、「予防原則(Precautionary Principle)」というコンセプトに基づいたとしても、「Danger/Warning/Caution」(危険/警告/注意)に係る社会システムを具体化するためには、様々な視座から深掘りした議論が必要になる。 2.各分野から見た「予防原則」の取り扱い 安全性評価における「予防原則」において化学物質に有害性があれば、段階的に規制する。先手先手を打つような「先回りで安全を確保する」ことが行われてきた。有用性と有害性の両面を見ながら、今後放置しておくと人類が暴露されどのような事態が生じるのか、そして、未然に防止するシナリオを作ることができるのか、単なる議論に留めずに具体的な取組がなされてきた。 農薬の使用についても、食糧を一定程度確保するためには、農薬が不可欠になっている。それゆえに、農作物を食べる消費者の安全や、環境に対する安全、農薬を使用する人々の安全を確保しなければならない。したがって、無毒性量を基準にした毒性試験等を始めとして、農薬の登録に必要な試験数は92種類にもなっている。 医薬に関しては、薬を作る側の目線も大切なのだが、薬を使う側の視線(消費者目線)で主作用と同レベルで副作用に係わる「予防原則」を考えることが大切である。「過去の薬害事件」を精査/分析して、その内容を平易に伝える努力を惜しむべきではない。 極微小、高硬度、難分解な性質を持っているナノマテリアルについては、EUでは、予防原則を明文化した上で、市場に出る「製品」を一つの単位として含有するナノマテリアルの「製品規制」を行う。米国では、予防原則を明文化せずに、既存の法体系や法制度を改正するなどして運用し個別具体的に懸念される物質を対象にし、「物質規制」を行っている。日本では、安全のガイドライン(方向性)が示されてはいるが、ナノテクノロジーの「物質の大きさ」による規制は存在していない。 3.各分野の「予防原則」の取り組み課題 「過ぎたるは及ばざるがごとし」であり、化学物質の摂取量をコントロールすることで、リスクを管理することが最も大切な課題である。 有用性と有害性のバランシングを図るために、これまで、多くの時間がかかってきた。すこしでもスピードアップするための「方法」を開発すべきであろう。人工知能を使っても良いだろう。またそのためには、社会構成員の相互の要請に基づいた情報収集の社会システムを構築することが重要である。メディアを介して正しい情報を適切に広く知ってもらうことも大切である。 4.これからの「予防原則」に期待すること 科学的に分からない部分、すなわち「科学的不確実性」があることは否定できない。したがって、既知のリスク、未知の可能性を組合せ、俯瞰的な視座から「予防原則」を社会実装することを期待する。リスクの予測を進化させることをスピードアップすることが最優先事項であろう。
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© 2023 協創&競争サステナビリティ学会
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