抄録
我が国では数多くの優れた防災教育の教材が活用されている。同様に、「稲むらの火」や「津波てんでんこ」の伝承なども、防災教育の題材として用いられてきている。しかし、未曽有の大災害となった東日本大震災の後、防災教育のさらなる高度化が期待されている。本論は、自然の災害と恩恵の二面性に着目した防災教育における新しい教材開発の提案である。題材は、8世紀の古事記や日本書紀に記録された出雲神話としてのスサノオとヤマタノオロチである。その着想の背景は以下に示す通りである。
(1)ヤマタノオロチの本質は、土石流を伴う河川の洪水を表現しているものと解釈できる。
(2)スサノオによるヤマタノオロチを退治する物語は、河川の治水と利水により持続可能な出雲の暮らしが実現することを表現しているものと解釈できる。
以上のような着想から、古事記や日本書紀に記されているスサノオによるヤマタノオロチ退治の出雲神話が、従来の国語や社会などの教科教育における物語の題材としてだけではなく、防災教育の有益な教材と成り得ることについて論じる。