抄録
本研究は、1995年1月17日に発災した阪神・淡路大震災の「前日」についての語りについて分析したものである。具体的には阪神・淡路大震災の発災以後の経験談ではなく、発災する前日(1995年1月16日)に関する経験談、すなわち、筆者らが「Days-Before」と呼ぶスタイルの語りに焦点を当てた。「Days-Before」という新たな語りのスタイルに注目して被災経験談を分析することで、被災経験談を用いた防災教育の新たな可能性を模索することを目的に、阪神・淡路大震災の前日の経験談をインターネット上で公募した神戸新聞NEXTのウェブ・サイト『震災の前日』に投稿された436個のエピソードの記述内容を対象に、質的・量的な内容分析を行った。その結果、『震災の前日』のエピソードは、これまでよりも多様な人々から『震災の前日』にウェブ投稿されており、かつ、発災直後から始まる典型的な被災経験談とは異なる、「前兆証言」を含む3種類の語りのカテゴリーに分類できることが明らかになった。すなわち、『震災の前日』の試みが、「被災者」や「被災経験談」の枠組みの幅を広げる機能をもっていることが示唆された。