2003 年 59 巻 9 号 p. 519-529
ホール音響における重要な課題の一つとして,ホールに対する演奏家の意識を理解することが挙げられる。そこで本研究では,ホールの音響効果に関する演奏家の言語構造について考察した。まずインタービューを通して得られた演奏家のコメントをもとに,演奏活動中の演奏家の知覚に並びに演奏家の言語構造の抽出の過程について,暗黙知理論並びに記号論の概念を用いて考察した。次にこの考察に基づいて,無響室内に構築したシミュレーション音場を利用した実験的検討を行った。その結果,演奏中の演奏家の意識に関して三つの軸を想定することによって演奏家の言語表現が整理され,また演奏家集団に共通な言語構造がモデル化できることが見出された。