手話学研究
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ろう者を対象とした新型コロナウィルスに関するインターネット情報の評価とその課題
インフォデミックの観点から
高山 亨太皆川 愛Poorna KUSHALNAGAR
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2020 年 29 巻 1 号 p. 1-9

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抄録
【背景】近年、インターネットやソーシャルメディアは、健康情報を入手するための一手段となり、かつ多くの人々の健康行動や判断に影響をもたらす情報発信媒体になっている。2019年12月に初めて感染が確認された新型コロナウィルスは世界的な感染流行となり、それに伴って、科学的根拠のない不確かな健康情報も爆発的に拡大した。この新型コロナウィルスに関する情報のパンデミックが起きている状況を世界保健機関(World Health Organization)は、インフォデミック(Inf odemic)と定義し、注意を喚起している(World Health Organization 2020a)。【目的】本調査では、日本において緊急事態宣言が発令される2020年3月31日時点での、主にろう者を対象とした新型コロナウィルスに関する健康情報の実態をインフォデミックの視座から記述統計により分析することであった。【方法】インターネット情報検索を行い、ろう者を主な視聴対象とした新型コロナウィルスに関する情報サイトやメディアなどの情報発信媒体45件を分析の対象とした。各情報発信媒体で発信されている健康情報が世界保健機関の推奨する感染予防行動基準8項目に準拠しているかどうか一致率を検討し、記述統計により分析した。【結果】情報発信源として、聴覚障害者情報提供施設が23件と最も多かった。世界保健機関の感染予防行動基準にどの程度準拠しているか、総合平均得点を求めたところ3.24(SD= 1.93)であった。日本手話(n=26)と日本語(n= 19)の言語媒体に区分し、比較したところ、統計的に有意な差は見られなかった。日本語を主体とした情報発信媒体と比較して、日本手話を主体とした情報発信媒体の方が、平均動画再生時間が短く、かつ、字幕などの情報保障をより提供していた。また、一般メディアが取り上げない新型コロナウィルスの手話に関する解説や医療手話通訳など、ろう者が必要とする健康情報を独自に発信するなどの取り組みがあった。【考察】調査の結果から、感染予防行動基準を全て満たしている情報発信媒体は皆無であり、かつ日本手話による情報発信媒体の方が、公的資料を参照したり、監修を受けていないため、不確かな健康情報を発信している例もあり、それらが結果的にインフォデミックの誘引要因になり得る可能性が窺われた。今後の課題として、ろう者の健康行動や意思決定におけるインフォデミックの影響について、ろう者を対象にした質的研究や手話動画の内容分析が挙げられる。
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© 2021 日本手話学会
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