手話学研究
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総説・依頼
  • 金澤 貴之
    2023 年 32 巻 2 号 p. 1-12
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2024/12/28
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    本稿では、「聾者」や「日本手話」の定義化をめぐる言説を、聾固有の言語・文化の構成を踏まえて整理し、これまで広く用いられてきた手話の分類(言語連続体)について社会言語学的な観点から再検討を行うこととした。その結果、①手話言語集団が「聴覚障害」によって生じ、その影響を受けて継承されるため、必然的に多様性が生み出される、②「日本手話」なる用語が「(音声)日本語」ではなく、日本語コードを手指で表した「手話」(日本語対応手話、手指日本語)を対抗レトリックとして提起されたために、言語連続体の右極が「日本語対応手話」として位置づけられた、③「手話は2つ」論も「手話は1つ」論も、いずれも政治的背景の元に主張がなされている、といったことが示唆された。これらの結果を踏まえ、社会言語学的に手話の言語使用状況を説明していくためには、人工的な言語や手話学習者の聴者を対象から除外し、聴覚障害ゆえに手話を主要コミュニケーション手段とする話者の範囲で手話の分類の検討をするべきであることを提案した。

  • 日本語対応手話話者による戦略的排除実践をめぐって
    松尾 香奈
    原稿種別: 総説・依頼
    2023 年 32 巻 2 号 p. 13-22
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2024/12/28
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    本論文は、「手話ではない」「ろう者ではない」と外部化される日本語対応手話およびその話者について、筆者の参与観察調査によって収集された事例をもとに「ろう者ではないのか」を理論的に検討することを目的とする。日本語対応手話は、手話言語学的に「手話でないもの」と名指され、その結果として日本語対応手話話者が「何者でもない」宙吊り状態に陥れられてきた。だが実際には、日本語対応手話話者は、日本手話話者のみを「正しい」ろう者とみなす一部の日本手話話者や良識派を戦略的に排除しながら「ろう者ではない、というよりむしろ、ろう者である」ろう者として平穏な日常を紡いでいた。こういった背景から、学術的な「ろう者」概念の定義と広くろうコミュニティで共有されている「ろう者」概念の定義にはしばしば乖離があることを示すと同時に、どちらかの定義に優位性を示せるわけではないと主張する。

  • 動きと韻律に着目して
    下谷 奈津子
    原稿種別: 総説・依頼
    2023 年 32 巻 2 号 p. 23-30
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2024/12/28
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    手話の音韻パラメータの1つである「動き」は、学習者にとり習得が難しいとされている。また、自然な発話には韻律の習得が欠かせない。本研究では、手話の「動き」および「韻律」に着目し、聴者が視覚-身体動作モダリティである手話を習得するなかで、どのようなエラーが見られるのかを調査した。聴者5名を対象に無声動画を見せ、その内容を手話で語ってもらい、ろう者が不自然だと感じた箇所を分析した。その結果、①マウジングの多用によるリズムの崩れ、②語の弱化の欠如または過度の繰り返し、③指さしの繰り返しおよび非利き手への接触、④NM 表現の消失、⑤手指とNM の韻律標識の共起エラーが観察され、動きや韻律に関して聴者特有の「なまり」があることが示唆された。

  • 日本語対応手話の存在による玩物喪志から新たな手話言語学的な知見へ
    川口 聖
    原稿種別: 総説・依頼
    2023 年 32 巻 2 号 p. 31-36
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2024/12/28
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    本稿は、日本では手話言語がどのように使用され、普及しているか、その使用実態を、日本手話言語を母語とする、ろうの当事者の視点から論述するとした。記述文法としての日本手話言語は、日本語の影響を受けながら、社会的背景や歴史的背景や政治的背景などにより、日常的に変質している。実際に、一部の手話講師や手話研究者などが主張する(神谷, 2000)、いわゆる日本手話と日本語対応手話、あるいは手指日本語の違いがわからないというろう者や手話学習者を多く見かけている。最大の原因としては、手話表現一つ一つに付記する日本語辞名の意味と、その手話表現自体の意味は全く同じであると思い違いをする人が多いからである。さらに、ろうの先人達の本能によって自然発生され、発展し、成熟化してきた手話言語文法(規則性、語順、表し方など)を土台にして、何世代にもわたって継承されてきた手話(視覚)言語が存在するにもかかわらず、その手話言語文法を無視した手話表現がどんどん生まれ、広まっている。それほどに日本手話言語が変質されてしまうほど、日本語辞名の影響力は大きいのである。このような日本手話言語の使用実態を明示化する。

  • 超拡張記号図式に布置したmouthing の動態性への諸理論の投影
    末森 明夫
    原稿種別: 総説・依頼
    2023 年 32 巻 2 号 p. 37-50
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2024/12/28
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    手話話者の発話には、手話構文に指文字や借用mouthing をはじめとする手指媒体記号や非手指媒体記号が共起ないし継起する事象が観察される。本稿では超拡張記号図式という記号論的接近法を援用して、手話構文とmouthing が共起する事象(手口共起)を焦点化し、手口共起にみる構成要素の図式化をはかった。さらに、translanguaging、用法基盤文法、ルビ論、triangular semiotic model を援用し、手口共起にみる構成要素の動態性を整理し、手話言語学ないし手話記号論に資した。

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