本稿は、日本では手話言語がどのように使用され、普及しているか、その使用実態を、日本手話言語を母語とする、ろうの当事者の視点から論述するとした。記述文法としての日本手話言語は、日本語の影響を受けながら、社会的背景や歴史的背景や政治的背景などにより、日常的に変質している。実際に、一部の手話講師や手話研究者などが主張する(神谷, 2000)、いわゆる日本手話と日本語対応手話、あるいは手指日本語の違いがわからないというろう者や手話学習者を多く見かけている。最大の原因としては、手話表現一つ一つに付記する日本語辞名の意味と、その手話表現自体の意味は全く同じであると思い違いをする人が多いからである。さらに、ろうの先人達の本能によって自然発生され、発展し、成熟化してきた手話言語文法(規則性、語順、表し方など)を土台にして、何世代にもわたって継承されてきた手話(視覚)言語が存在するにもかかわらず、その手話言語文法を無視した手話表現がどんどん生まれ、広まっている。それほどに日本手話言語が変質されてしまうほど、日本語辞名の影響力は大きいのである。このような日本手話言語の使用実態を明示化する。
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