抄録
本稿は、ギルドホール音楽院の《コネクト》プロジェクトによる創造的ワークショップの諸様相を検討した。《コネクト》を最も強く特徴づけるのは、従来の方法論や枠組みにとらわれず、それを排したところで ワークショップを実践することである。例を挙げれば、 《コネクト》プロジェクトにおいて楽譜は用いられず、クラシック音楽やポピュラー音楽といった音楽のジャンルや参加者の音楽的能力の有無・程度は間われない。また、従来の方法や枠組みが排除されるため、《コネクト》のワークショップヘの参加のための準備は必要とされない。したがって《コネクト》プログラムは、その人の音楽の能力や経験、さらにはバックグラウンドや性向等に関係なく、あらゆる人に開かれているといえる。
ワークショップでのグループ活動において、グループは新しい音楽を創造し発表するという課題を与えられる。グループのメンバーが協同してこの課題の達成を目指すことにより、グループの共同性が高められる。それと同時にメンバーは自らをグループ活動の積極的実践の主体であると自覚することになる。要するに《コネクト》のワークショップは参加者に、そのバックグラウンドや属性にかかわらず、共同体を構成・運用する主体になる機会を提供するのである。このことは、《コネクト》が果たす社会的な役割として評価できるだろう。
逆の視点からいえば、ワークショップの成否には、グループの共同体化とそこにおける参加者の主体化の成否が関係する。《コネクト》のワークショップの冒頭でおこなわれるウォームアップのプロセスはそれに役立つと考えられる。