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Online ISSN : 2758-1098
民俗芸能の保護をめぐる文化財政策の研究
―地域社会における保護政策の運用を中心にⅠ:民俗芸能の継承をめぐる「地域」の枠組みの検討―
福田 裕美
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2010 年 2 巻 p. 63-82

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抄録

 日本の民俗芸能の多くは、昭和25(1950)年制定の文化財保護法に基づく文化財政策下で保護を受けているが、同じ保護を受けながら、近年、継承の成否についての格差は広がる傾向にあり、こうした状況から、現行の文化財政策が民俗芸能の継承の現場においては必ずしも有効にはたらいているとは言えないことが指摘できる。さらに近年、市町村を中心に様々な目的の施策が横断的に講じられる状況も発生し、国のみならず市町村の文化財行政を中心にした、民俗芸能の継承に対応し得る文化財政策のあり方を再検討する必要性も生じている。  本研究では、5つの民俗芸能に係る継承の事例の比較検証を中心とし、複数の事例に基づいた、1)民俗芸能の継承に係る「地域」の枠組みについての検討、2)「地域」における民俗芸能の保護をめぐる文化財政策の運用の傾向の提示、3)民俗芸能の継承をめぐり影響を及ぼす要因や問題点の抽出と対応策の提示を行うことにより、従来は個別の問題として扱われるに過ぎなかった民俗芸能の継承の問題について、文化財政策全体の課題として指摘する。なお、本稿は1)の検討までを範囲とし、2)と3)については次稿に記す。  本稿において検討した1)民俗芸能の継承に係る「地域」の枠組みについては、その多様性の問題が現在の継承の成否と深く結びついているのみならず、今後の継承・支援の方向性においても重要な要素であると考えられるが、これまで曖昧な議論の枠を出ることはなかった。そこで、本稿では5つの事例に関し、民俗芸能の「地域」を構成するきわめて形式化した骨組みを独自に提示し、それらを分析することによって、議論の前提となる「地域」を明らかにすることを試みた。

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© 2010 本論文著者
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