抄録
韓国の重要無形文化財制度には性格の異なる無形の文化財が混在している。しかし、これらの様々な性格が十分に考慮されていないため、その保護・管理体系には不備が見られる。具体的にいえば、重要無形文化財に指定されている芸能はそれぞれ伝承をめぐる環境や状況が異なっているにもかかわらず、現在の無形文化財保護制度ではすべての芸能を一律に保護・管理しているため、種目によっては保護の有効性が問われる。
このような問題意識の下に、具体的な事例として韓国の民俗芸能のクッ1)を考察する。無形の文化財の中で最も民俗的なものであるクッは、国家儀式や儒教儀式などと同様に、重要無形文化財の儀式分野に指定され、保護されている。しかし、実際これらの重要無形文化財のクッは、近年の伝承現場や社会的環境などの変化に伴い、国の保護を受けながらも伝承断絶の危機に瀕している状況である。よって本稿では、重要無形文化財クッのうちからとくに東海岸別神クッを中心にとりあげ、その伝承をめぐる諸問題を考察し、現在の韓国の無形文化財保護制度が抱えている問題点を分析し、今後の保護政策の課題を明らかにしたい。