2017 年 20 巻 1 号 p. 48-57
【問題と目的】本研究では,中学校新人教師が直面する生徒指導上の危機と回復のプロセスモデルを作成することによって,中学校新人教師が直面しやすい生徒指導上の危機や回復の過程で有効であったサポートの内容,危機が与えるポジティブな側面を検討する。
【方法】Z県公立中学校教諭5名を対象として,中学校新人時代に直面した生徒指導上の危機についてインタビュー調査を実施した。分析はKJ法によりカテゴリ化を行い,「中学校新人教師が直面する生徒指導上の危機と回復のプロセスモデル」を作成した。
【結果】中学校新人教師は問題の及ぼす範囲の狭い危機に直面していたが,その背景には個人や職場内にさまざまなリスク因が存在した。危機からの回復には,職場内の先輩同僚の道具的サポートと同世代同僚の情緒的サポートなどが有効であった。その経験は,キャリア発達上のターニングポイントとなっていた。
【考察】中学校新人教師が直面する生徒指導上の危機は,危機の及ぼす範囲は狭いものの背景に種々のリスク因を抱えていることから,深刻な状況に陥りかねない。周囲が,バーンアウト寸前に新人教師が出すサポート希求を捉え,危機の状況と危機に対する新人教師の認知に応じて,「タテ」の関係による道具的サポートと「ヨコ」の関係による「情緒的サポート」を織り成すことで有効なサポートとなる。そうして生徒指導上の危機を乗り越えた体験は,教師の生徒指導上の成熟を促進させ,教員文化に内在化される同僚性を育む。今後は,教員同士が相互にサポートし合える環境を整える施策が求められる。