2024 年 27 巻 2 号 p. 177-191
【はじめに】本稿では対人問題解決力の転移を可能にする指導法について考察するために,2つの視点から先行研究のレビューを行った。1つ目は,ソーシャルスキルトレーニングの効果が般化しにくい原因として,対人関係に関する他分野の理論や知見をうまく生かしていない可能性を考え,対人問題解決力に関連する既存の研究を分野横断的に整理し,各分野で実践されている指導法の現状を概観した。2つ目は,認知的制約のない一般の人を対象とした開発的なアプローチでは,行動の般化だけでなく学習内容の転移を目指すことが必要であると考え,既に転移を促す指導についての知見が蓄積されつつある学習科学や問題解決モデルに関する既存研究も概観した。
【方法】社会的コンピテンス,ソーシャルスキルトレーニング,社会的問題解決の情報処理モデル,問題解決療法の4つの分野について分野ごとに行われているレビューから文献を収集し,必要に応じて文献検索による資料の追加を行った。収集した資料から分野横断的な比較をするために表を作成し,分野間の相互の関連性が明確になるように図を作成して整理した。
【結果】社会的コンピテンス,ソーシャルスキルトレーニング,社会的問題解決の情報処理モデル,問題解決療法に関する研究を「定義・概要」,「目的・根拠」,「研究の歴史的経緯」,「分類」,「利用者・対象者・実践者」,「研究方法・教育における活用法」の6つの視点で整理し,課題を明らかにした。転移を可能にする教育への示唆として,認知的制約のない大人を対象とする場合には学習者にモデルや思考過程を明示的に教えるという方向性が示された。
【考察】学習科学の分野では,転移を促す指導にはメタ認知的気づきを促すインフォームドな指導が不可欠とされており,インフォームドな指導を可能にするモデルとして問題解決の縦糸・横糸モデルと,モデルに基づく指導に関する研究をレビューした。問題解決の縦糸・横糸モデルは教科や分野を超えた共通の枠組みとして汎用性,転用可能性が検証されつつあり,対人問題解決力の教育に適用することで,学習科学と対人関係に関する研究を統合して指導することが可能になると考察した。【まとめと今後の課題】今後,学習科学の知見をとりいれた対人問題解決力育成の研究が蓄積され具体的な指導法が開発されることで,学習内容の日常的な対人問題解決への転移が可能になると期待される。