山の科学
Online ISSN : 2435-7839
山の気象水文観測の現状と課題
鈴木 啓助
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2018 年 1 巻 p. 1-11

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抄録
わが国の山岳地域における気象水文観測の現状の問題点と,その課題を解決するいくつかの試みを紹介する.気温の水平的な変化に対して高度方向の変化が約800倍も急激であることから,地球規模での環境変化の影響が山岳域では如実に現れることになる.しかしながら,気象庁による気温の観測は,富士山を除けば標高1350 mの野辺山が最高所になる.わが国の水資源として重要な役割を果たしているのみならず,植物や動物にとって寒冷で風の強い冬季にも適度な生息環境を提供している積雪は,重要な環境要素のひとつである.しかしながら,気象庁による降積雪深の観測の最高所は奥日光の標高1292 mにすぎない.このような現状のため,地球規模での気候変動に対する山岳地域における応答を,観測されたデータに基づき議論するためには,標高の高い山岳地域で気象観測を実施する必要がある.そこで,信州大学鈴木研究室では中部山岳地域の14カ所において気象観測装置を整備してきた.野辺山と富士山の標高間が気象観測の空白地帯となっていたが,信州大学の14カ所の観測地点がその間の標高を埋めている.高標高地域で降水量や降積雪量の観測が行われていないために,流出高が流域降水量を上回るという水収支的に矛盾することも起きている.これらの課題を克服する試みとして,雪氷化学的手法による積雪水量から固体降水量を算定する試みや,航空機に搭載したレーザースキャナによる積雪深分布測量から流域全体の平均積雪水量算定の試みなどを紹介する.
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© 2018 日本山の科学会

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