システム農学
Online ISSN : 2189-0560
Print ISSN : 0913-7548
ISSN-L : 0913-7548
研究論文
ハイパースペクトルデータによる冬小麦の生育推定のための波長選択
金本 麻衣子田中 真哉川村 健介松古 浩樹吉田 一昭秋山 侃
著者情報
ジャーナル フリー

2008 年 24 巻 1 号 p. 43-56

詳細
抄録

東海地方では,水田転換作物としてしばしば冬小麦が栽培される。しかし,乾燥地域を原産地とする小麦を水田輪作地で栽培すると,穀実中のタンパク含有率が低くなるうえ圃場内のばらつきが大きいため,品質の管理が困難である。そのため,圃場内および圃場間における小麦の品質分布について,精密かつタイムリーに観測する技術の構築が求められている。本研究では,現地観測で得られたハイパースペクトル反射計測データ(400~950 nm,111 波長)の中から,小麦の地上部現存量と葉面積指数(LAI),ならびに葉身中の窒素含有率の推定に生育期間を通じて有効な波長を選び出すために,(1)2 バンドの全組み合わせによる正規化植生指数(NDVI)と,(2)Partial least square(PLS)回帰分析を試みた。分光反射計測は,2004 年の冬小麦生育期間中における5 時期(2/11,3/11,4/1,4/15,4/29)に,4 段階の施肥設計(0,5,9,11 kg N m-2)のもとで栽培した各サイト3地点で行った。全波長の組み合わせによるNDVIを比較した結果,現存量(R2 > 0.8),LAI(R2 > 0.4),窒素含有率(R2 > 0.5)の全てについて,既存の赤(red)と近赤外(NIR)の波長を利用したNDVI の結果(R2 = 0.39,0.27,0.01)よりも高い寄与率が認められた。さらにPLS を用いることで,すべて3 つの作物変数(R2 = 0.93,0.80,0.83)に対して,組み合わせNDVIよりも高い推定精度を得た。また,一次微分の反射スペクトルを利用することで,現存量(R2 = 0.95)と窒素含有率(R2 = 0.88)のさらなる推定精度の向上が認められた。これら,組み合わせNDVI およびPLS 回帰分析の結果から,冬小麦の現存量とLAI の推定にはgreen(525–570 nm)とred edge(720–780 nm),NIR(930–950 nm)の波長が,窒素含有率の推定にはblue(425–490 nm)とred(645–685 nm)の波長がとくに重要であると示唆された。

著者関連情報
© 2008 システム農学会
前の記事 次の記事
feedback
Top