抄録
近年、管理放棄された竹林が周囲の森林へ侵入し竹林面積が増加していると報告されている。森林が竹林に変わると、森林の機能の一つである森林生態系への炭素の貯留にも影響があると推測される。しかし、竹林生態系における炭素貯留量に関する研究はほとんどなく、特に、長期間管理が放棄された竹林生態系の現存量や炭素貯留量に関する研究は行われていない。そこで、本研究では岐阜県内3ヶ所の放棄竹林生態系における現存量および炭素貯留量の推定を行い、森林の竹林化による炭素貯留量の変化ついて考察を行った。本研究における放棄竹林の地上部現存量は42.1t/ha~83.5t/haであり、既存の研究結果よりもやや少ないものの範囲内であった。枯死脱落部の大部分を占める落葉落枝量はモウソウチク林で4.68t/ha、マダケ林では5.75t/haであり、立竹密度に影響されることがわかった。地下部の現存量は約90t/haであったが、立竹密度よりも土壌の影響を大きく受け、A層の最も厚い場所で現存量が最も大きくなった。放棄竹林の地上部炭素貯留量は他の植生の森林の半分程度であった。細根の炭素貯留量には大きな違いは見られなかった。地下茎の炭素貯留量を含めても、土壌を除く竹林生態系の炭素貯留量は他の森林よりもかなり少ないことが判明した。放棄竹林が周辺の森林に侵入し生育範囲を拡大した場合、新しく形成された竹林の炭素貯留量は元の植生の半分以下に留まる可能性があることが判明した。