抄録
放射線による細胞死は増殖死と間期死に分けられ, これらの過程は微速度観察により明らかにすることができる. 放射線照射後に生き残った1個の細胞から由来する子孫細胞の系図を調べると, 明らかに損傷を持たない細胞の間に死んで行く細胞が塊となって出現しているのが認められ, この現象はLethal Sectoringと呼ばれている. 染色体橋が原因で起きると考えられる姉妹細胞融合は増殖死に先立つ細胞異常として最も高頻度で観察される. X線のような低LET放射線では間期死を起こすのに10Gy以上を要するが, 高LET放射線は間期死を誘発する作用が大きい (230keV/μmでRBE約3).
潜在致死損傷 (PLD) の発現 (固定化) は細胞周期事象と密接な関係がある. DNA複製の完了を監視するRCC1蛋白 (染色体凝縮の制御因子) が温度感受性であるtsBN2細胞では非許容温度で未成熟染色体凝縮 (PCC) が誘発され, それに伴いPLDが修復不能な損傷に変わる. また, 核マトリックスの高次構造の変化も重要な役割を果たしている. その1例としレプトマイシンBによる致死促進があげられ, これは染色体の高次構造維持に関与している核マトリックスのCRM1蛋白の機能を阻害することによりPLDを固定化する.