抄録
良性疾患の放射線治療は近年減少しているが我々の施設では逆に10数年来増加している. その原因を求め, 今日の良性疾患放射線治療の役割と問題点を検討した. 対象は過去16年間に著者のひとりが担当した放射線治療患者のうち良性疾患に分類された349例 (9.2%). 検討項目は年間治療件数と対象疾患の推移, 患者の年齢・性別, 治療目的である. 年間治療件数は5年おきに1例, 13例, 29例, 53例と急増した. その原因はケロイドの術後照射と下垂体腺腫の放射線治療の件数の増加にあり, それぞれ良性疾患全体の71%, 12%を占めていた. その他の疾患は年間0-5例とほとんど変化がなかった. 悪性腫瘍の患者に比して良性疾患の患者は平均年齢が若く (それぞれ57.3歳, 35.3歳p<0.0001), また未成年の占める割合も高かった (それぞれ3.4%, 19.5%p<0.0001). さらに女性の占める割合が大きかった (それぞれ42.6%, 57.9%p<0.0001). 症例数の多いケロイドや下垂体腺腫ではプロトコールに従った明確な治療目的や治療方法があったが, 希な疾患では症例報告や教科書上の治療を模倣して行われていた. しかし, 最近ではIVRに伴う合併症の軽減を目的に放射線照射を行ったものがある. 確かに今日の趨勢では代替治療の開発と発癌性の知識が普及したため良性疾患における放射線治療は第一選択にはならない. しかし, 難治症例を中心とした第二, 第三の治療法としてはある程度の需要があることが示された. 症例数が多く経験豊富な疾患では適応の決定にそれほど困難を感じないが, な疾患では最適な治療の選択に困難を感じ, データベースの必要性を痛感させられた. また, その構築に期待したい. それはインフォームド・コンセントに際しても有用となるだろう. さらに良性疾患患者は若年者・女性が多く平均余命が長いため発癌性に対する配慮が必要であると思われた.