抄録
速中性子線は, 高LET放射線の中で最初に治療に用いられた粒子線である.1938年から1943年にかけて行われた速中性子線による晩期損傷に関する再調査が進み, また速中性子線の生物効果の研究成果が蓄積された結果, 高LET放射線の癌治療における利点が認められ, 1966年に速中性子線治療が再開されることになった.速中性子線治療が再開された頭初には固定水平ビームによる治療が主流であったが, 1980年代には光子線治療に対応できる治療技術のもとで効果比較ができるようになった.
過去30年にわたる速中性子線の治療成績が評価され, 腺癌 (分化型), slow growth傾向の腫瘍に速中性子線は著効があり, 大唾液腺癌, 前立腺癌の治療に関して, 速中性子線は第1選択の治療手段としてすすめられている.
一方, 速中性子線には線量分布上の優位は期待できず, 線量分布を改善することが高LET放射線治療の特徴を明らかにするための重要な課題であることが分った.
TT-中間子線はBragg peakを持つ粒子線であるが, 線量分布と生物効果の両面に課題があり, 重粒子 (イオン) を利用する研究によって高LET放射線治療の適応はさらに明らかになるのであろう.