抄録
本稿の目的は、政策助成クラスターがその成長過程において経験するキャズム(Chasm) の存在を究明することである。本稿では、韓国の代表的なハイテク・クラスターのテドク・バレーのケースを調査・分析することにより、政策助成クラスターのキャズム発生のメカニズムを明らかにする。ムーアは、キャズムという用語を「ベンチャー企業がその成長過程において経験する大きな挑戦、あるいは深い溝」と定義し、ベンチャー企業が急成長するには必ずキャズムを乗り越えなければならないとしている(Geoffrey A. Moore、1991)。本稿では、「キャズム」という用語をイノベーション・クラスターの成長過程において経験する挑戦ととらえ、政策的に助成されたクラスターは、自然発生的に形成されたクラスターとは異なるキャズムを経験することを明らかにする。イノベーション・クラスターがさらに成長を続けるか、キャズムに落ちて衰退していくかは、各クラスターがキャズムをいかにして乗り越えられるかに大きくかかっている。