アントレプレナー・エコシステム(以下、EE)は、いかにして形成されるのか。EEの先行研究ではアクターとファクターの観測が主眼であったが、近年ではコンテクストに関する研究蓄積が厚みを増している。Autio et al.(2014)によって、コンテクストの研究動向は、6種類(地理的、制度・政策的、社会的、組織的、産業・技術的、時間的)に整理されたが、2019年には27本の論文が発表されるなど、ここ数年でさらにコンテクストとEE形成の関係性の研究に発展がみられる。本研究は、2001年から2020年までの国際的に質の確保された80本の査読論文を抽出し、現象分析を行い、年ごとの論文発表数、論文の発表分野、掲載されたジャーナルなどから研究の傾向を把握した。次に主題分析により、EEに関連する先行研究をレビューし、(1)各種コンテクストにおいて先行研究でどのような内容が議論されているのか、(2)どのように様々なコンテクストがEE形成に影響を与えているか研究傾向を明らかにした。分析の結果、EEを適切にデザインするためには対象となる地域の地理的コンテクストと共に、時間的コンテクストに十分な配慮を行う必要があることが明らかとなった。時間の経緯の中では、その他の要素である組織的、産業・技術的、制度・政策的および社会的コンテクストも、適切に組み込まれる必要がある。ただし、各コンテクストに関する議論が活発化しているものの、それらを統合する試みは見られない。Autio et al.(2014)が提示した、EEの形成の三段階、すなわち①コンテクストが相互作用してEEを形成する、②形成されたEE内にてアントレプルヌアル(起業家的)・イノベーション(以下、EI)が発生する、③発生したEIが地域発展に繋がるという3つの因果関係のうち、①の段階に焦点を当てて分析を行った。2014年以降の先行研究においては、これに関連する論点が多面的に提示されていることが明らかであるが、今後は、コンテクストとEEの相互作用の実態をより深堀した研究の蓄積により、EEの発展、EIの創出に貢献することが期待される。
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