TEAと質的探究
Online ISSN : 2758-8335
在日ムスリム留学生の ヒジャーブ着脱行為をめぐる価値の変容過程
TEAによる3名の事例分析
中野 祥子
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2023 年 1 巻 1 号 p. 33-54

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抄録
本研究の目的は在日ムスリム留学生のヒジャーブ着脱をめぐる行為と価値の変容過程についてTEAを用いて検討することである。留学前後でヒジャーブ着脱行為が変容した経験をもつ3名のムスリム留学生を対象に,3度に渡り半構造化面接を行い,日本留学から帰国後現在に至るまでのヒジャーブ着脱行為についての認知・感情・行動を尋ねた。TEM図により行動と出来事の変遷を,TLMGを用いて価値の変容を個別に捉えていった。その結果,彼女たちが「日本への留学」,「日本人によるヒジャーブ着用に対する質問」,「帰国」を通じて,ヒジャーブ着用の価値を問い直し,着脱行為を変容させていく多様な過程が明らかになった。ヒジャーブ着脱は必ずしもイスラームの教義解釈や信仰心を表すものではなく,彼女たちにとっての固有の意味をもっていた。さらに,ヒジャーブ着用に対する価値・信念は行為に即時的に反映されるとは限らず,乖離している場合や時を経て反映されていく場合があることがわかった。在日ムスリム女性が,状況や周囲,神との関係に影響されながら振る舞いや行為の意味づけを変容していることが示唆された。
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© 2023 TEAと質的探究学会
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