次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
2023 東京
セッションID: 2023.1_AG-2
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ミエリン-オリゴデンドロサイトに着目したうつ病の病態並びに新規治療法に関する検討
髙橋 浩平黒川 和宏宮川 和也持田(斎藤) 淳美武田 弘志辻 稔
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キーワード: myelin, depression
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抄録

オリゴデンドロサイトは、脳内において神経軸索でのミエリン形成を担い、脳神経伝導の高速化や修飾に寄与している。近年、うつ病患者の死後脳では様々な脳部位でミエリン構成タンパク質の減少が認められることが明らかにされ、うつ病の病態生理におけるミエリン並びにオリゴデンドロサイトの重要性が注目されている。

 社会的敗北ストレスや社会的孤立ストレスを慢性負荷したうつ病モデルでは、前頭前皮質におけるオリゴデンドロサイトの分化異常、並びに脱髄やランビエ絞輪の形成異常が生じることが報告されている。一方、これら基礎研究で用いられているストレスの強度は多岐に渡るため、その妥当性(臨床におけるどの程度のストレスに当てはまるか)については解釈に難渋することがある。そこで本研究では、前述したストレス負荷うつ病モデルにおける知見を踏まえ、ストレス負荷に起因しないうつ病モデルである嗅球摘出(olfactory bulbectomy: OBX)マウスの脳内におけるオリゴデンドロサイトの分化やミエリン並びにランビエ絞輪形成の変化と、それらに対するイミプラミン及び乳酸菌Enterococcus faecalis 2001(EF-2001)の効果について検討した。

 OBXマウスでは、術後21日目においてうつの指標となる尾懸垂試験での無動時間が延長すると共に、前頭前皮質における成熟オリゴデンドロサイト細胞数及びミエリン構成タンパク質の減少やランビエ絞輪の形成異常が認められたが、これらはイミプラミンを2週間反復投与することで改善した。また、同様の効果は、OBX手術7日前からのEF-2001の予防投与によっても認められた。故に、イミプラミン及びEF-2001の抗うつ効果に、オリゴデンドロサイトによるミエリン形成の正常化が関与している可能性が示唆された。さらに、EF-2001については、オリゴデンドロサイトの分化並びにミエリンの形成に関与していることが報告されているCREB/BDNF及びNF-κB p65/LIF/STAT3経路を活性化する作用を有することも併せて見出した。

 以上の知見より、オリゴデンドロサイトによるミエリン形成の促進が、抗うつ効果の発現に大きく寄与すると考えられる。従って、今後そのメカニズムを詳細に考究することが、うつ病のさらなる病態解明や新規抗うつ薬開発の一助になると期待される。

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© 2023 本論文著者
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