2018 年 2018 巻 28 号 p. 69-80
ドイツ監査報告制度においては,企業内部向け長文報告書と外部向けの監査証明書である確認の付記という2つの報告書がある。本稿は,確認の付記を考察の対象として,EU規範と国際監査基準(ISA)の最近の動向が確認の付記に与える影響を示す。その目的は,監査上の主要な検討事項(KAM)の導入に関する対応状況から顕在化するドイツ監査報告制度の特質の解明にある。監査報告制度のEU規範とISAへの適合は,ドイツ商法上の年度決算監査の現実化と国際化をもたらした。一方,公共の利益にかかわる企業(PIE)の確認の付記に導入されるKAMの報告は,Non-PIEには適用されなかった。Non-PIEの場合のKAMに関する情報は,内部用長文報告書において考慮すべきとされたのである。
以上から,確認の付記の長文化をもたらすKAM導入に関する考察において,現実化と国際化を特質とする制度的対応がみられる一方で,コーポレート・ガバナンス構造を背景にした内部用長文報告書の意義が確認される。ここにドイツ監査報告制度の顕著な特質を見出すことができる。