抄録
本稿では,各種アンケート調査の結果を分析して,想起,順応,合理化の視点から,幸福度指標を経済政策に応用する際の三つの留意点を提示した.第一に,幸福から連想する言葉や内容は人によって異なり,それが主観的幸福度の違いをもたらす.第二に,幸福度の尺度には限界があり,人々の幸福度の推移を統計的に把握することは容易ではない.第三に,ある種の世界観は幸福度や所得に有意に影響する.また,人々は合目的的に幸福度を高めているとは必ずしもいえない.これらの結果は,幸福度の分配原理,計測の精緻化,世俗的合理主義との折り合い等,幸福主義的な政策を立案する上での諸課題を示唆している.