本論文では世帯内の格差,特に夫婦間の経済格差を定量化するとともに,これが主観的幸福度に与える影響を分析した.論文ではまず消費格差をはじめとする経済格差に関する記述的分析を行った.具体的にはLise and Seitz (2011)にしたがって消費格差を定量化し,世帯間と世帯内の消費格差の時系列推移を推定することで,日本においては世帯間の消費格差が2000年以降横ばい傾向にある一方で,世帯内の格差は近年縮小傾向にあることを指摘した.また夫婦間の私的消費を確認すると,1990年代は妻の私的消費は夫のそれと比べて三分の二程度であったが,足もとでは妻の私的消費が夫の私的消費とほぼ同水準にあり,夫婦間の私的消費格差がほぼ解消していた.夫婦間の消費格差の解消が妻の主観的幸福度に与えた影響も分析した.推計の結果,夫婦間の私的消費格差が縮小すると妻の主観的幸福度が上昇することが分かった.この結果は,相対所得仮説を考慮してもなお頑健な結果であった.本論文の結果は経済格差を議論するにあたり,世帯間の格差のみならず世帯内の格差にも留意すべきであることを示唆している.