抄録
本稿では,日本人の経済的選好や行動特性について東日本大震災の前後で同一個人を継続して調査が行われた大阪大学GCOEデータを用いて,東日本大震災の影響を分析した.時間割引率,危険回避度,利他性,メンタルヘルスについては,こうした影響は,震災による所得の変動,年齢の変化,学歴などをコントロールした上でも,震災前後を比較すると日本人全体で統計的に有意な変化がみられた.日本人の経済行動は,震災後,長期的な計画性を備えるようになり,リスクに対する慎重さも高まった.時間割引率に関する推計結果によると,現在バイアスが震災後に小さくなった.そうした傾向は,日本全体ばかりでなく,震度5以上や計画停電を経験した地域においても観察された.ただし,津波被災を受けた地域の人々のなかには,震災後,特に2013年になって現在バイアスがかえって高まる兆候も認められた.