抄録
細胞の適切な冷却はcytoprotictiveに働き,心,肝,腎を中心にこれまで組織および細胞で種々の基礎的研究がなされ,これが心,肝,脳外科および移植外科学を含め広く臨床面の発展に貢献してきた。冷却効果による細胞の形態学的研究は,主にミトコンドリア,核全体の一括した観察が主体で,核小体もその一部として取り扱われてきた。1983年よりわれわれは,癌に対する温熱化学療法の見地からこれに対する基礎的研究として,本邦でも数少ないヌードマウス可移植食道癌培養細胞株数種を樹立し,これを用いて各種の刺激による核小体の超微形態学的変化を観察してきた。本研究では冷却によって生じる核小体様小体(intracytoplasmic nucleolus-like body: NLB)の形成および核小体が細胞質内に逸脱する現象,いわゆるnucleolar extrusion (NE)を食道癌培養細胞株を使用して,その機序を究明する。核小体(nucleous)はリボゾームの前駆体であるribosomal RNA (rRNA)を合成する核内小器官であり,主に線維中心(nucleolar organizer region: AgNOR),線維成分,顆粒成分および核小体蛋白から構成され,線維中心にはrRNA gene,線維成分には転写された45srRNA,顆粒成分にはそれがプロセシングされた28srRNAが含まれており,線維成分と顆粒成分は線維中心をとり囲みながら網目状の構造(ヌクレオロネマ)を呈している(核小体にはヌクレオロネマの明瞭なopen nucleolus と不明瞭なcompact nuclelousの2種類があり,後者は前者がpackageされたものと考えられている)。各種細胞は細胞周期や種々の刺激によって核小体の形態変化を示すが,なかでも最もこれまで知られているのが,核小体の各成分が分離する核小体分離(SG)と,核小体線維成分を含む核小体小成分の核小体からの逸脱である(microspherulesの形成)。また,同時に細胞質に核小体様小体(intracytoplasmic nucleolus-like body: NLB)が細胞質内に出現することは,1959年代よりすでに超微形態学者により,多くの細胞(正常細胞:処置,無処置,悪性細胞等)において報告されてきた。一方,NLBの一部は核小体由来と考えられ,その前段階である核小体そのものおよびその一部が核膜をすりぬけるかやぶって細胞質内に逸脱する現象,いわゆるNEの報告は少ない。NEのプロセスは瞬時で比較的稀な現象で,超微形態学的に認識することが困難であると考えられている。したがってNLBおよびNEとSG,核小体分離との形態学的関係,さらにNLB形成およびNE現象の生物学的意義は,いまだ明瞭には解析されていない。われわれは各種ストレス,主に制癌剤や温度感受性試験において,SGはネクローシス細胞,アポトーシス細胞において容易に観察される一方,NLBおよびNEの出現は比較的稀であり,低温処置ではSG, NLB, NEが他のストレスより高頻度に出現することに着目した。また株により低温処置感受性も異なり,耐性株でNLBがよく観察される。本研究では明瞭な核小体を有する食道癌培養細胞株を活用し,核小体の(1) NEを示す核小体の核膜,およびNLBと細胞質内小器官との超微形態学的構築,さらにSGとの関係を検索し,(2) 核小体とNLBの免疫組織化学(RNA染色)を解明し,温度変化による核小体の細胞質内逸脱現象の生物学的意義を系統的,詳細に比較形態学的検討した。