抄録
甲状腺癌の原発巣が腺扁平上皮癌で転移リンパ節に腺癌成分と扁平上皮癌成分の両方を認めたのは本症例が初報告である。本症例は1995年に左頸部の硬結を指摘され,5年後に急速増大を認め原発巣を切除した。同時に切除した転移リンパ節からは扁平上皮癌成分は認めなかった。しかしその1年後に増大を認め切除した右腋窩リンパ節に腺癌成分と扁平上皮癌成分を認めた。初回手術の1年7カ月後に死亡した。
甲状腺腺扁平上皮癌は予後が悪く術前診断は困難である。これまでの報告例でも甲状腺腫の存在期間は1~60年とさまざまであるが,急速増大後は大部分が2年以内に死亡している。このような臨床経過から甲状腺腫瘤が出現し始めたときは腺癌のみが存在し,腺癌から腺扁平上皮癌への移行の開始後に腫瘤の急速増大が起こるのではないかと考えられた。そのため臨床的には腫瘤が増大傾向になれば速やかに切除することが望まれる。