抄録
嚥下姿勢の工夫は,さまざまなタイプの嚥下障害症例に広く実践されている。嚥下障害に対する姿勢や頭位の指導は,食塊の流入状況や咽頭腔の形態を変化させることで誤嚥のリスクを軽減することを目指した工夫である。病態に応じて適切な姿勢を選択することで,誤嚥防止に有効な手段となるが,嚥下障害の病態を的確に診断し適切な嚥下姿勢を選択することが重要である。最近では,嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査で嚥下障害の病態や嚥下姿勢の有効性を確認するのが一般的となっている。
頸部前屈位は,最も広く指導されている嚥下姿勢である。頸部前屈位では,喉頭蓋に食塊が貯留しやすくなるため,嚥下反射の惹起遅延を呈する症例に有用である。患側への頸部回旋位は,健側への食塊流入を優位にすることで誤嚥や咽頭残留のリスク軽減に繋がる。後屈位は,重力を利用した口腔から咽頭への食塊移送に有用である。これらの嚥下姿勢を組み合わせて指導するのも有効である。
嚥下時の体位や頭位の指導は,咽喉頭腔の解剖学的な位置関係を変化させることで誤嚥のリスクを軽減する工夫であるが,個々の嚥下姿勢は明確に規定されていない。今後,嚥下姿勢の定義を明確にし,その効果を検証することが求められる。