2016 年 67 巻 3 号 p. 201-208
混合性喉頭麻痺の病態診断は,原因となる病変の存在や,その進展範囲を知る上で診断的価値をもつ。しかし,諸検査の結果,未だに原因が不明な症例も存在する。今回,私たちが過去19年間で経験した混合性喉頭麻痺症例のうち,頭部MRIで占拠性病変や肥厚性硬膜炎などの器質的疾患が除外され,ヘルペス疹を認めず,また血清学的にも水痘帯状疱疹ウイルスと単純ヘルペス感染が完全に否定され,原因疾患が特定できなかった混合性喉頭麻痺症例のうち,発症2週間以内に当科を受診し,1年以上経過が追跡できた患者16名について後方視的検討を行った。検討項目は,脳神経麻痺の状態とその予後,前駆症状の有無,初診時の白血球分画,各種ウイルス抗体価のペアー血清,初診時の髄液検査である。混合性喉頭麻痺は,1例で対側視神経障害を合併していた。他は全例,頸静脈孔症候群を呈していた。脳神経麻痺の予後は全例が発症23カ月以内 (平均6.5カ月) にすべての神経障害が回復した。何らかのウイルス感染が示唆された8症例は,回復に平均8.5カ月と長期間を要したが,すべての検査で陰性であった7症例は,平均1カ月と明らかに回復期間が短かった。特にすべての検査で陰性であった症例の中には発症から11日以内にすべての神経障害が回復するという従来から言われていた末梢神経障害でのWaller変性に従う神経障害の回復過程よりも明らかに早く回復する症例も存在した。