抄録
酸を添加することによりエンド酸素が脱離し着色するベンゾ[1,2,3-kl:4,5,6-k’l’]ジキサンテンエンドペルオキシド(1a)とその窒素類縁体(1b)またはイオウ類縁体(1c)について,AM1分子軌道法計算によりプロトンとの反応性,および,色素骨格の周辺部に位置するヘテロ原子の違いが脱酸素反応に与える影響について検討した.まず、酸素類縁体(1a)については,エンド酸素のプロトン親和性が色素部位の酸素のプロトンの親和性に比べて大きく,エンド酸素へのプロトン化によって生成する中間体 4a を経て色素体に分解することが推定された.しかし,その反応が実験的に遅いことから、色素部位のヘテロ原子を硫黄や窒素に換えることによる効果をシミュレートした.色素部位のプロトン親和性は大きくなり、また、そのヘテロ原子にプロトンが付くことにより,酸素の脱離反応の活性化エネルギーが軽減され,酸素の脱離がおこり易くなることが計算により示唆された.一方、特に窒素のとき、4 を経由するエンド酸素へのプロトン化反応が有利であった.これらのことにより周辺部のヘテロ原子を酸素から窒素や硫黄に変換することにより,エンドペルオキシドの酸との着色反応を促進できると期待できる.酸をトリガーとする新しい機能性色素を見出す指導原理になると考えられる.