抄録
分子軌道(MO)計算や密度汎関数理論(DFT)計算により詳細な反応解析を行うことが可能であるが、その結果はあくまでも真空中絶対零度の条件下のものである。しかしながら、ほとんどの反応は水、アセトニトリル、アルコールなどの溶媒を用いて実施される。従って、実際の実験に即した形で化学反応を解析するためには、溶媒効果を含んだ計算を行うことが必要である。この効果を含んだ計算を行うには、SCRF計算や分子動力学(MD)法などが利用されてきた。前者は溶媒のバルクの効果のみを取り入れる方法であるため、溶媒分子個々の性質は理解できない。一方後者は、その計算にしばしば古典力場を用いるが、この場合精度の高い計算結果は期待できず、有機合成に用いる溶媒への対応が困難である。我々は、化学反応における溶媒の影響を量子化学的に評価するために、QM/MC法(量子化学計算を用いたモンテカルロシミュレーション)による溶媒効果の解析を行うプログラムの開発し、酢酸メチルのアルカリ加水分解に適用した。反応解析にMP2/6-31++G**レベルの計算を、MCシミュレーションに必要なエネルギーはPM3法で算出したところ(この計算はQM/MC(MP2/6-31++G**,PM3)と表わされる)、実験結果を良好に再現する結果が得られた。