Journal of Computer Chemistry, Japan
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研究論文
生化学データに基づくシステムシミュレータの開発
安藤 格士伊東 聖剛山登 一郎
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2013 年 12 巻 4 号 p. 204-214

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抄録
現在,各種オーム研究の進展により得られる網羅的な情報を使用した細胞シミュレーションが可能な環境が整いつつある.本研究では細胞全体の挙動をシミュレーションするためにセルラーシミュレータの開発を行った.本ソフトは以下の2点を特徴としている. 1. 生化学的に意味のあるシミュレータを目指し,可能な限り生化学データを使用する. 2. 細胞全体の挙動を予測するため,本ソフト内に様々な反応プロセスを統合する. KmkcatKaなどのシミュレーションに必要な実験データを文献から収集し,グルコースとラクトースの存在下で生育する大腸菌の遺伝子発現・代謝ネットワークシミュレーションを行った.この系には遺伝子発現制御系(ラクトースオペロン,lacI遺伝子,crp遺伝子)と代謝系(解糖系,ラクトース分解系),リン酸リレー情報伝達系(phosphotransferase system, PTS)が含まれている.その結果,まずグルコースを利用し,その後ラクトースを利用し,二段階生育を示すという特徴的な現象(diauxie)を再現することが出来た.また,これまでdiauxieにはグルコース存在下におけるPTS経路を介したラクトース取り込み阻害(inducer exclusion)とグルコース代謝時のcAMP生成抑制(カタボライト抑制)が重要とされてきた.しかし近年,グルコース代謝時とラクトース代謝時におけるcAMPとCRP (cAMP receptor protein)の濃度に大きな変化がないことが示された.そこでcAMP:CRP複合体の濃度を基底レベルの1 μMで一定としてシミュレーションを行ったところdiauxieの現象に影響がなかった.これはinducer exclusionがdiauxieの主因であるという実験結果を裏付けている.
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© 2013 日本コンピュータ化学会
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