X線結晶構造などの実験的手法により構造が決定されProtein Data Bank(PDB)から利用可能になって以来,計算科学者はそれらを初期構造として,シミュレーション計算に用いるモデル構造を作成することは事実上必須になっていた.このモデル構造作成の過程は物理化学的に妥当なモデルを得るという分かりやすい目的のため,その手順は研究者によりさまざまであり,その作成方法はオープンソースプログラムを用いる方法から商用ソフトウエアを用いるなど多岐にわたる.一方で,その前処理のさらに前に複数の実験構造がPDBに登録されている場合,どの構造を優先して選ぶべきか,堅苦しくいうと「指針」のようなものは無いように思える.実際にFMOコンソーシアム等に参加する研究者や,シミュレーションを新規に試みる学生や研究者から相談を受ける事も多い.そこで,本稿ではシミュレーションを始める前に複数の構造を利用できる場合や1つの構造のみが利用できる時,どのような事に注目し分子ドッキング,分子動力学計算,フラグメント分子軌道法計算などのシミュレーションに用いるか,筆者の経験を元にして大まかに5つ程度の項目にまとめた.
The fragment molecular orbital (FMO) program ABINIT-MP has a quarter-century history, and related research and development of the Open Version 2 series is currently underway. This paper first summarizes the current status of the latest Revision 8 (released on August 2023). It then describes future improvements and enhancements, including GPU support. The connection with coarse-grained simulation (dissipative particle dynamics) and the possibility of cooperation with quantum computation are also touched upon.
フラグメント分子軌道(FMO)法はタンパク質全体を量子化学計算可能な稀有な手法である.そして,FMO法によって得られるデータもまた,現状ではタンパク質系の量子化学計算データとして唯一無二のものとなっている.汎用ソフトウェアでは生成が困難なタンパク質の量子化学計算データとそれを用いた様々な機械学習モデルの開発は,近年活性化が著しいAI創薬に大きなインパクトを与えることが期待される.本稿では,筆者らのグループで進めているFMOデータを用いた機械学習モデル(原子電荷予測モデル,相互作用予測モデル,機械学習力場)の開発状況を概説する.