2015 Volume 14 Issue 3 Pages 85-87
The effects of the tube length and diameter on the thermodynamic stability and chemical reactivity of zigzag carbon nanotubes (CNTs) with finite-length Clar cell (FLCC) were examined by means of topological resonance energy (TRE) and algebraic structure count (ASC), respectively. It was found that TRE and HOMO-LUMO gap in FLCC-(3,0) CNT with fully-benzenoid oscillate as functions of the tube length with the period of 2. In contrast, FLCC-(4,0) and (5,0) CNTs were found to have the tube length dependence different from that of FLCC-(3,0) CNT. This difference in tube diameter (chiral-index) dependence was found to be characterized by whether ASC is equal to Kekulé structure count or not.
有限の長さを持つアームチェア型CNTのHOMO-LUMO gapやNBMOの有無,Clar 構造 [1]は,その長さの増大に伴って周期的に変化する事が知られている [2,3]. 我々は以前,このアームチェア型CNTの熱力学的安定性と化学的安定性のチューブ長依存性について,トポロジカル共鳴エネルギー (topological resonance energy:TRE) [4,5]と符号付きケクレ構造の代数和 (algebraic structure count:ASC) [6]を用いて以前に見いだされていたHOMO-LUMO gapsの周期3の変化がTREにも存在する事,その周期的な振動はASCが周期3で0となることによるものである事を示した [7].
このASCが0となる構造の出現はCNTのエッジ形状に由来するものであり,さらにそれはClar 構造の周期的な変化とも対応している.そこで本研究では,Clar構造を有するfinite-length Clar cell (FLCC) [8]を持つジグザグCNTを用いて,そこに同様のチューブ長依存性が存在するかを熱力学的安定性の指標としてTREを,化学反応性の指標としてHOMO-LUMO gap及びASCを用いて検討する.さらに,FLCCを持つジグザグ型CNTにおいては,ナノチューブの構造を表す指標であるchiral-index [9]によってClar構造も変化するため,チューブ径依存性に付いても合わせて検討する.なお,chiral-index (n,0)のうち,nが3x(x = 1, 2, 3 …)となる時のFLCCはfully-benzenoid,3x+1となる時はKekulé type,3x+2となる時はClar typeとなる.
異なるサイズの分子を比較する為に,TREの指標としてはπ電子一個あたりのTREであるREPE (resonance energy per electron)を,ASCの指標としてはKekulé構造の総数(SC)に対して正の符号のKekulé構造の数(K(+))が占める割合をそれぞれ用いた.HOMO-LUMO gapにはヒュッケルMOレベルのものを用いた.
計算対象には (3,0)N ~(5,0)N CNTを用いた.Nはチューブをエッジの形状が常に等しくなるように延長した際に出現する層の数である.Nの増加に合わせ,純粋にFLCCのみからなる構造(FLCC-x)とFLCCをずらした構造となるKekulé type (K-x)が周期2で出現する.N = 1∼4までのFLCC-zigzag CNTのClar構造の変化をFigure 1に示す.
Change of Clar structures with the increase of tube length of FLCC-zigzag CNT. (Opened-up cube)
N = 9までのFLCC-(3,0)N ~(5,0)N CNTのREPE及びHOMO-LUMO gapの結果をFigure 2に示す.FLCC-(3,0)N については双方共にNの増加に伴い周期2の振動が見られた.この振動は,構造がK-xとなる(Nが偶数となる)際に相対的に熱力学的,化学的安定性が低下する事を意味する.
REPE values (solid blue line) and HOMO-LUMO gaps (dash red line) of FLCC-zigzag CNTs vs. N.
a) FLCC-(3,0)N, b) FLCC-(4,0)N, c) FLCC-(5,0)N.
これに対しFLCC-(4,0)Nと(5,0)Nはおいては,REPEはNの増加に対して単調に増加する傾向を示すが,FLCC-(4,0)NのHOMO-LUMO gapはFLCC-xの出現に合わせて変化し,FLCC-(5,0)NのHOMO-LUMO gapはFLCC-xとK-xでNの増加に対する変化が異なるという結果が得られた.この事は,熱力学的安定性は炭素数に,HOMO-LUMO gapはClar構造にそれぞれ依存するという事を示している.
ASCについてもNの増加に対してFLCC-(3,0)NとFLCC-(4,0)N, (5,0)Nで異なる変化が見られた.それぞれのCNTにおけるNに対するK(+)/SCとASCの値の変化をTable 1に示す.FLCC-(3,0)NはK (+)/SCの値が周期的に変化し,構造がK-xとなる時に相対的に低下するなどREPEやHOMO-LUMO gapと同様の変化を示した.これに対し,FLCC-(4,0)N, (5,0)NではASCとSCが常に等しくなるという結果が得られた.このASCの違いは,チューブ径が大きくなるに従って周期3で出現し,それはFLCCがfully-benzenoidとなる(chiral-index: nが三の倍数となる)構造の出現に対応している.
以上の結果より,FLCCを持つジグザグ型CNTにおいて,fully-benzenoid構造を持つ(3,0) CNTはアームチェア型CNTのTREやHOMO- LUMO gap,ASCにおいて見いだされていたものと同様のチューブ長依存性が存在する事,これに対して(4,0),(5,0) CNTのHOMO-LUMO gapについてはClar構造に依存した別種のチューブ長依存性が存在する事が示された.さらに,これらのチューブ長依存性はチューブ径の増加に伴い周期3で変化するというチューブ径依存性(chiral-index 依存性)が見られ,それがASC = SCとなるか否かで特徴付けられる事も明らかにされた.
FLCCを持つジグザグ型CNTはエッジに欠陥を持つジグザグ型CNTと解釈する事が可能であり,これらの結果は,その欠陥によって生じたClar構造がチューブ長依存性やチューブ径依存性と極めて密接に関係している事を示すとともに,エッジの形状を制御する事でアームチェア型と同様のチューブ長依存性をジグザグ型CNTに与える事が可能である事や,これらの構造依存性の理解に対してASCを用いる事の有用性を示している.