Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Theoretical Analysis of Cation Diffusion Pathway in SOFC Electrolyte
ChingTang LINTakayoshi ISHIMOTOMichihisa KOYAMA
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2015 Volume 14 Issue 3 Pages 92-93

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Abstract

Cation diffusions at materials interfaces in solid oxide fuel cell (SOFC) potentially cause degradations of cell performance during long-term operation. We investigate the cation diffusion mechanism in yttria stabilized zirconia (YSZ), as a first step to clarify the cation diffusion mechanism at SOFC interface. Molecular dynamics simulation combined with the metadynamics method are used to simulate cation jumps in this study. Y3+ and Sr2+ migration mechanisms in YSZ are discussed on the basis of cation jumps observed by using the metadyanamics method.

1 はじめに

固体酸化物形燃料電池(SOFC)は高効率でクリーンな発電システムとして注目されている.SOFCでは空気極にランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF),反応防止層にガドリニウムドープセリア(GDC),電解質にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などが用いられる.このSOFCでは空気極のSr2+が反応防止層を通過して電解質へと拡散し,絶縁性物質が析出することにより電解質の電気伝導性が低下する [1].このようなカチオン拡散がSOFCの劣化要因の一つとなっているためSrなどのカチオンの拡散メカニズムの解析が重要である.分子動力学(MD)法はこのような原子スケールの現象の解析に用いられるが,通常のMDシミュレーション時間ではカチオンの拡散はとらえることが困難である.そのため,付加ポテンシャルを加えることによって反応の確率を上げるメタダイナミクス法が有効である [2].SOFCの空気極から電解質までのカチオンの拡散の全体像を捕らえるためには,LSCF,GDC,YSZとそれらの界面の5つに分け,各部での拡散を解析する必要がある.本研究では,その第一歩としてバルクのYSZ内でのYとSrの拡散経路とメカニズムを解析した.

2 方法

Figure 1に使用したYSZとその局所構造を示す.立方晶蛍石型構造において酸素の配位数は4,カチオンの配位数は8である.本研究ではY2O3を8 mol %ドープしたYSZおよびSr2+を1つ含むYSZのモデルを使用した.4 × 4 × 4のスーパーセルを用い,カチオン拡散の起点のためZr4+を1つ,対応して酸素を2つ取り除いた.計算には古典分子動力学計算ソフトLAMMPSを使用し,原子間ポテンシャルにBorn-Mayer-Huggins (BMH)ポテンシャル [3]を使用した.計算は1000 K,1atmのNPTアンサンブルで行い,積分時間2fsで200psのシミュレーションを行った.

Figure 1.

 a) Structure of the YSZ model and b) local structure. Light blue, blue, and red spheres represent zirconium, yttrium and oxygen atoms, respectively.

3 結果

3.1 YSZ中のY3+の移動

本研究のシミュレーションの時間内においてYSZ中におけるY3+の移動は数回見られた.一方,Zr4+の移動はシミュレーション中には見られなかった.Y3+の移動経路をFigure 2に示す.Figure 2 a) に初期,b) に移動開始時,c) に移動中,d) に移動後の構造を示す.初期 (Figure 2 a)) ではYの酸素配位数は8であったが,移動直前 (Figure 2 b))にはYの酸素配位数は7であった.移動中 (Figure 2 c)) にカチオンとカチオン空孔との間の2つの酸素格子点は酸素が2つ占有しておりカチオンはこの2つの酸素を避けるように移動し,カチオン移動過程において2つの酸素はゲートを開けるように変位した.移動後 (Figure 2 d)) 押しのけられた2つの酸素は格子位置には戻らず歪んだ構造が見られた.

Figure 2.

 Migration pathway of Y3+. Red, blue, yellow, and gray spheres represent oxygen, yttrium, cation vacancy and oxygen vacancy, respectively.

3.2 YSZ中のSr2+拡散

本研究のシミュレーションの時間内においてSr2+を含むYSZ中におけるSr2+の移動はY2+の移動に比べ移動頻度が高く,移動速度の増加も見られた.一方,Zr4+,Y3+の移動は見られなかった.Sr2+の移動経路をFigure 3に示す.Figure 3 a) に初期,b) に移動開始時,c) に移動中,d) に移動後の構造を示す.初期 (Figure 3 a)) においてSr2+の酸素配位数は6であり,移動直前 (Figure 3 b)) においても同様であった.拡散中 (Figure 3 c)) ,カチオンとカチオン空孔との間の2つの酸素格子点には酸素が1つあり,酸素空孔が存在していた.Sr2+は2つの酸素格子点のうち酸素に近い経路で移動した.移動中2つの酸素格子点の酸素は移動せず,拡散後 (Figure 3 d)) もSr2+の拡散に影響を受けなかった.

Figure 3.

 Migration pathway of Sr2+. Red, green, yellow, and gray spheres represent oxygen, strontium, cation vacancy and oxygen vacancy, respectively.

4 結論

メタダイナミクス分子動力学法を用いることにより酸化物中のカチオン移動現象をとらえることができた.YSZ中におけるY3+およびSr2+の移動プロセスにおいて,それらの移動経路はカチオン周りの酸素の配置と連成している現象が見られた.今後,一般的な拡散メカニズムを議論する端緒となる知見を得ることができた.

参考文献
 
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