Journal of Computer Chemistry, Japan
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Mami KIKUCHI
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2015 Volume 14 Issue 5 Pages A33

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我が家では,数年前から,飼い主がいない犬を自宅で預かり,新しい飼い主さん探しをするボランティアをやっています.入れ替わり立ち替わりやってくる犬との生活は面白く,また新しい飼い主さんも素敵なご家族ばかりで,楽しく続けています.

仲間のボランティアと飼い主さんを見ていると不思議なことに気づきます.ボランティアごとに,その家から犬を迎える飼い主さんの傾向があるようなのです.明るくてアクティブなご家族,まじめでしっかり者のご家族,おっとりのんびりしたご家族,といった具合です.飼い主さんを決める時に,いくつかの条件でお断りすることはありますが,基本的にボランティアは受け身ですから積極的に飼い主さんを選んでいるわけではありません.それなのに,なぜ?と思い考えてみたのですが,もしかしたら,各ボランティアが担当している,「飼い主募集」の文章が影響しているのかもしれないとの考えに至りました.それぞれの犬の募集記事や,日々の生活を紹介するブログ記事は,一緒に生活しているボランティアが,素敵な飼い主さんがみつかりますように!との思いを込めて書いています.その文章を読んで,その犬に興味を持ち,この犬と生活したいと思った方が飼い主さんになってくださるので,一人の人の言葉に共感する人達は,限られているのかもしれないと思うのです.

職場でも似たようなことがあります.あの人の話は面白いからたくさんの人に知って欲しいと思い,「ぜひ,聞いてみたらどうでしょう.」と紹介しても,「あれは,いいね.とても面白かったよ.」という人,「あれは,ダメだね.何を言いたいのかよくわからなかったよ.」という人,様々であることがよくあります.あれ?と思い,どこがよかったか,どこがダメだったかを聞いてみると,実は,同じことを言っているけれど,大事だと思うポイントがそれぞれ違っていたり,ほんの少しのわからなかったポイントが全体評価に繋がってしまっていたり,ということが大部分です.

専門分野,特に理論化学や計算機シミュレーションといった高度に専門的な知識を必要とする分野の話は,企業において大部分の人から,「あぁ,あの難しいやつね.」と初めからあまり聞きたくない顔をされてしまいがちです.専門家どうしの会話で,大いに興味を持ってもらえて,熱い議論の対象となった方法論や,検証過程の話は,それ以外の人にとっては完全に外国語どころか宇宙語であると認識した方がよいのではないでしょうか.私達は計算結果から得られた成果を実際の形にするために,様々の人に伝える必要がありますので,宇宙語ではなく日本語(または英語)で伝える努力をしなくてはなりません.優れた専門家の話は,専門外の多くの人の興味を引くことから考えれば,難しいけれど可能であることは明白です.お話する相手とお会いした時に,「あぁ,面白い話が聞けそうだな.」という顔をしてもらえるようになりたいと,しみじみ思うこの頃です.

 
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