Journal of Computer Chemistry, Japan
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Technical Paper
Addition of Winmostar Functions for STL File for 3D Printer
Tadayosi YOSHIMURANorio SENDA
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2016 Volume 15 Issue 1 Pages 7-12

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Abstract

3Dプリンタで分子モデルを作成するためにSTLファイルを創出できるCADを探したが見つけることができなかったので,分子モデリングソフトで分子データ(原子の位置x,y,zデータ)を作成し,それをSTLファイルに変換できるOpenSCAD言語でプログラミングすることで分子モデルの3Dプリンタ用ファイルを作成してきた.その一連の作業を分子モデリングソフトWinmostar (V6.003)で実現したことを報告する.これによって,OpenSCAD言語を理解することなく,分子モデルの3Dプリンタ用ファイルを作成することができる.

1 はじめに

コンピュータ時代の今日,3Dプリンタが普及し化学分野でもその利用が模索されている.分子モデリングソフトの開発により,モニター画面上で2次元投影の3D分子モデルが表現できるようになり,分子の立体視が化学分野の教育と研究で利用されている.モニター画面だけでなく,触って体感できる分子モデルとして,HGS分子構造模型,発泡スチロール分子模型,折り紙分子模型などの3D分子モデルが利活用されてきた.

そのような中で,2003年に長尾輝夫(函館高専)は製造業のものづくりに利用されていた3D造形装置を用いて3D分子モデルを作成し,教育•研究面での有効性を提案した [1].長尾は分子モデリングソフトで描画されたものをCG系データ(VRML形式)経由で3D-CAD系の造形データ(DXF)に変換して分子モデルを作成した.

長尾による中•低分子モデルの教材開発の後,川上勝が近年進化したフルカラー3Dプリンタ技術を応用して複雑な構造をもつタンパク質の分子模型を開発した [2].この技法は高度な構造を有するタンパク質の機能発現機構を理解する研究素材•教材を製作するツールとして3Dプリンタが本格的に利活用された事例である.

筆者らは,廉価版3Dプリンタを用いて分子モデルを製作し,触って見る分子モデリング教育を実践した [3,4].3Dプリンタの標準データはCAD系STL (standard triangulated language)形式に統一されているため,分子モデリングできるCADソフトを探索したが,STL形式で出力してくれるソフトを探すことができなかった [5].分子モデリングソフトで作成した3Dデータ(構成原子のx, y, zの位置データ)をOpenSCAD [6]でプログラミングしSTL形式データを作成することで3D分子モデリング教育を行った.

そこで,分子モデリングはWinmostar [7]でデータを作成し,OpenSCADでプログラミングして分子モデルのSTL形式データを作成する一連作業をWinmostar (V6.003)機能に付加したことで3D分子のデータ作業が向上した.3Dプリンタ用の分子モデルデータ(STLファイル)の作成が簡便となり,Winmostarのファイル表示機能も向上したので報告する.

2 3Dプリンタの現状

3Dプリンタは1980年代に実用化されたものの,実用機は億円単位の高価なマシンであり,熱溶解積層方式(FDM, fused deposition modeling)の特許もあったことで,ほとんど普及しなかった.FDM特許の失効(2009年)とともに格安3Dプリンタ時代となり,その開発普及を目的としたRepRap (Replicating Rapid Prototypes) Communityなどが発足し,廉価版3Dプリンタに関するオープンソースコミュニティが開発•普及に貢献した.

10万円代の3Dプリンタが市販されるようになると,個人ベースのユーザが増え,パーソナルユースのものづくりが始まった.そこに,2013年2月のオバマ大統領の一般教書演説で「3Dプリンタを活用してアメリカに製造業を呼び戻す」という補助金予算化の起爆剤が働き,日本も感化され2013年が"3Dプリンタ元年"と言われた.

今日では,製造業を中心に建築•医療•教育•航空宇宙•先端研究など幅広い分野で普及しているが,教育分野ではものづくり教育のツールとして学校現場単位に導入が始まったところである.教育現場では,3Dプリンタによるものづくりの基礎教育を模索している.ゆえに,3D分子モデリング教育においても分子モデルデータ(STLファイル)の作成作業が簡便な処理でなければならない.

3 WINMOSTAR機能の付加

Winmostarは,分子モデリングから量子化学計算•分子動力学計算の実行,および計算結果の表示までをPC上で軽快かつ直感的に実現するパッケージソフトウェアであり,クロスアビリティ社で継続して機能を向上させている.吉村らがWinmostarで3D分子データを作成しOpenSCAD言語でSTL形式の3Dプリンタ用のデータを作成するまでをプログラミングで行ってきた [3,4,7].今回,その一連作業をWinmostar内でOpenSCADデータファイルを作成し,OpenSCAD起動のもとでSTLデータを作成する機能を付加した.Winmostarにこの機能が付加されたことで,3Dプリンタで分子モデルの作成が簡便となり,OpenSCAD言語を知らずに3D分子モデルのSTLファイルを作成できるようになった.

Winmostarで分子モデリングできれば,自分で設計した分子モデルを3Dプリンタで作成できる.吉村らが開発した一連の作業工程 [8]はOpenSCAD言語のコマンドを理解してプログラミングしなければならず,一般向けではなかった.今回のWinmostarにOpenSCAD用ファイル(.scad)の自動作成機能が付加されたことで,誰でも簡便な取り扱いができるようになった.3Dプリンタに適合した分子構造表示として,空間充填モデル(space filling)と棒球モデル(ball and stick)を採用した.

以下にWinmostarにOpenSCADファイルを作成する一連の作業工程を示す.

Figure 1にWinmostarによるメタンの分子設計とOpenSCADへのファイル設定を示す.作業工程説明のために構造が単純な分子構造のメタン(CH4)分子を例としてモデリングしWinmostarで描画した.その後,OpenSCADへのファイル設定を行うには,Figure 1のメニュー「表示-OpenSCAD」をクリックすると,Figure 2のダイアログが表示されるので,分子モデルをSpace-Filling (空間充填)モデルに設定し,[View]をクリックする.すると,Figure 3のようにwinmos_temp.scadファイルがメモ帳で表示される.このファイル (winmos_temp.scad)をOpenSCADに読み込みコンパイル(操作はファンクションF6キーを押す)すると,Figure 4のようにメタン分子の空間充填モデルが表示される.

Figure 1.

 Design of methane molecule by Winmostar, and the file settings to OpenSCAD

Figure 2.

 Selection of molecular model

Figure 3.

 "winmos_temp.scad"file Notepad display

Figure 4.

 Compile operation in OpenSCAD (version 2015.03-1)

Winmostarでは,グラフィカルに分子をモデリングしているが,その機能によって,原子の位置と種類が反映されている.そのデータをOpenSCADへファイル設定すればそのまま原子の位置と種類が反映され,Figure 3のようにファイルが作成される.原子の種類はOpenSCAD記述リスト中の注釈として例えば炭素の場合,//Cと表示するようにした.空間充填なので球体sphereというキーワードが使われている.原子半径は文献 [3]で示したように共有結合半径に起因した値を用いている.

OpenSCAD がインストールされていてFigure 2のメニューでOpenSCADのパス[Path-Set]が設定されていれば[View]でメモ帳の代わりにOpenSCADが立ち上がるはずである.OpenSCADでファンクションキーF6を押してコンパイルする.OpenSCADのメニューより「Export as STL file」を選択すれば,3Dプリンタ用のSTLファイル(.stl)が保存される.ここで,設計した分子の名前を付けてメタンの空間充填モデルだと,例えばCH4spafil.stlとして保存する(Figure 5).

Figure 5.

 Export as STL file

以上,空間充填モデルについて記述してきた.空間充填モデルは球体sphereを用いたが,棒球モデルは棒cylinderと球sphereというキーワードの組合せで記述している.棒球モデルデータを作成する場合は,Figure 2のダイアログで「Ball and Stick」modelを設定すると,Figure 6のように"winmos_temp.scad"のテキストファイルが表示されるので,それをOpenSCADに読み込みコンパイルすると,Figure 7のようにメタン分子の棒球モデルが表示される.OpenSCAD (version 2015.03–1)ではSTLファイルのアイコンがメニュー表示されているのでそれをクリックすればファイルを保存できる.

Figure 6.

 "winmos_temp.scad"file Notepad display

Figure 7.

 Compile operation in OpenSCAD (version 2015.03-1)

4 今後の展望

分子モデルを作成するうえで,3Dプリンタ用のSTLファイルの創出に限定した作業の効率化を報告した.3Dプリンタは熱溶解積層方式を想定したので,分子モデルは空間充填モデルと棒球モデルを設定したが,他の分子モデル表示やカラー表示も必要とされれば機能付加を検討したい.Winmostarは高度な分子構造であるタンパク質に関しても有用なモデリングソフトであるので,低•中分子に留まらず,高分子についても3D分子の作成を試みたい.

References
 
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