Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
ペプトイド類のフラグメント分子軌道計算
川田 修太郎坂口 正貴米倉 伊吹奥脇 弘次望月 祐志福澤 薫
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2016 年 15 巻 3 号 p. 51-52

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Abstract

Peptoids are a class of peptide mimetics whose side chains contain nitrogen atoms rather than α-carbon atoms. This structural feature restricts the intrinsic capacity to form hydrogen bond networks of α-helix, therefore peptoid oligomers are attracting attention due to the ability to design chemical properties such as self-assembling by selecting proper side chains. This paper shows some illustrative peptoid calculations, based on the fragment molecular orbital (FMO) method.

1 背景と目的

ペプトイドとは,Zuckermannによって開発されたペプチド骨格においてCα炭素上にある側鎖がN原子上に構造を持つ人造の分子群である [1].この特徴によりN-H部分に由来する鎖間や鎖内の水素結合が形成されなくなり,ペプチド類と比べて側鎖の選択やモノマーの構造による凝集能や化学的性質の制御が直截に可能であること,また合成も比較的容易なことから,新たな機能性ポリマーを形成する基本素材として注目されている [2](Figure 1).

Figure 1.

 Peptide (upper) and Peptoid (lower).

私達は,これまでタンパク質やDNAなどの生体関連の分野で有用性が示されてきたフラグメント分子軌道(FMO)法 [3]に関して,ナノバイオや機能性高分子材料への展開も視野に入れ,最近の研究活動を行っている [4].今回は,ペプトイドが集合して凝集体となった際の化学的性質や光学的特性について,相互作用解析を中心とした計算例を紹介する.

2 モデリングおよび計算方法

一つのモデルとして,水1分子を内部の空洞部に含有する環状のオクタペプトイド [5]を選んだ (Figure 2).この構造を計9つのフラグメントに分割し,フラグメント間の相互作用エネルギーを算出した.さらにこの単量オクタペプトイドについて,結晶操作プログラムMercury [6]を用い,並進対称性を維持して結晶状態を模した27量体まで展開した結晶モデルについても同様の計算を行った.FMOプログラムは,フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)の詳細解析(PIEDA)が可能なみずほ情報総研(株)版のABINIT-MP [7]を使用した.なお,計算は標準的なFMO2-MP2/6-31G*レベルで行った.

Figure 2.

 Octa-peptoid monomer (left) and 27-mer (right) [5].

3 結果

Table 1は,オクタペプトイド [5]における中心の水分子に対する各残基に対する相互作用エネルギーである(単位:kcal/mol).PHL4とPHL8,二つのフェニル基部分はFigure 2において円で囲った残基であり,単量体,結晶中のどちらの場合も強く安定化していることが分かる.これは,ペプトイド骨格中のカルボニル酸素と水分子が水素結合を形成しているためである.また,結晶中では安定化は大きくなっているが,これは水分子が隣接する単量体の側鎖であるフェニル基の相互作用の増分による.

Table 1. IFIE results of water.(kcal/mol)

側鎖のフェニル基に注目すると,隣接する単量体のフェニル基とのスタッキング構造が確認できる(Figure 3).Table 2は,このスタッキング構造におけるフェニル基間の相互作用の成分解析機能(PIEDA)の結果(kcal/mol)であり,静電的相互作用(ES),交換反発(EX),電荷移動とその他の寄与,(CT +mix),分散力(DI)に分割して示している.

Figure 3.

 Close-up view of side-chain stacking.

Table 2. PIEDA results of PHL-PHL.(kcal/mol)

期待どおり,スタッキングで主成分とされる分散力の寄与が大きい.

4 結論と今後の展開

今回の計算において,環状ペプトイド [5]が含有する水分子を強く安定化し,集合体ではフェニル基間のスタッキングが安定化に寄与していることを確認した.これは,側鎖が自己凝集の駆動因子となっている例である [2].現在,フェニル基のスタッキングを中心とした励起エネルギー移動の計算 [8](分子研の藤田貴敏氏によるABINIT-MP [4]のローカル拡張版を使用)を行っており,ペプトイドの光学応答材料としての可能性も検討している.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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