Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
交差共役系での置換基効果
藤山 亮治日高 りさ子
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2016 年 15 巻 3 号 p. 79-80

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Abstract

Substituent effects in cross-conjugated systems were carried out on a series of substituted 3-methylenepenta- 1,4-diynes with primary carbocation CH2+. Their optimized energies were calculated at the B3LYP/6-31G (d) level. The substituent effects were expressed in terms of isodesmic reactions and were analyzed by LSFE equation. The analysis results show that the substituent effect is inversely proportional to the stability of the whole molecule. In other words, the more stable the cross-conjugated molecule is, the smaller it's substituent effect become.

1 序論

置換基効果は物理有機化学において物性や反応機構の研究で重要な役割を果たしてきた.置換基効果の定量化はHammett式として良く知られている.しかしながら,この式はベンゼン環上の置換基効果として展開され,ベンゼン環を含まない多くの化合物,あるいはベンゼン環の効果が小さい化合物には有効でない.また,置換基効果の電子的効果をいくつかの効果に分けた式が提案されてきた [1].電子的効果は一般に誘起効果と共鳴効果に分けて考えられてきている.このような観点から,都野等はLSFE式(Linear Substituent Free Energy relationship)を提案した [2].

   log(K/Ko) = ρiσi + ρπ+σπ+ + ρπσπ   

ここで,KK0はそれぞれ,ある置換体の平衡定数と無置換体の平衡定数,σiは誘起効果の置換基定数,σπ+,σπはそれぞれ,電子供与の共鳴置換基定数,電子求引の共鳴置換基定数である.3つのρはそれぞれの置換基定数に対する感度で,対象化合物の特徴を表わす.このLSFE式を適用した報告例は少なく,有用性が十分に明らかにされていない [3,4,5].

一方,近年,計算化学による置換基効果の研究が有効であり,置換基効果の研究に用いられるようになっている [6].このような状況から,置換誘導体の合成のために多くの反応が必要な化合物や分離が困難であるような化合物に対して,計算化学による置換基効果解析を行っている.今回は鎖状炭化水素で,交差共役となる3-methylenepenta-1,4-diyne骨格での置換基効果にLSFE式を適用し,交差共役系での置換基の電子的効果の伝達を調べたので報告する.三重結合は直線であるため,この骨格に反応中心としての炭素陽イオンCH2+や置換基を付加しても立体的効果はほとんどない.交差共役 [7]は共鳴による電子対の移動が分子全体に非局在化する共鳴構造を描けないことから,反応中心と共役できない部分の影響を置換基効果に基づき系統的に調べた.

2 方法

交差共役系の置換基効果解析は,一方の三重結合が共役する際はもう一方の三重結合は共役できない3-methylenepenta-1,4-diyne骨格構造に反応中心として一級の炭素陽イオン(CH2+)を二重結合の末端に,三重結合上に置換基を付加した構造でのヒドリド移動のisodesmic 反応のエネルギーΔE(kcal/mol) に対する置換基効果により調べた.全ての最適化エネルギーは,Gaussian09プログラム [8]を用い,B3LYP/6-31G(d)レベルで計算し,補正係数0.9804により零点エネルギー補正を行った.

3 結果と考察

基質IからVIIのLSFE解析結果をTable 1に示した.交差共役の基質Iと交差共役のない基質IIを比較すると, ρi値とρπ値は同程度の似た値ではあるが基質IIのρπ+値が負の大きな値となった.この結果は置換基のない一方の三重結合が炭素陽イオンを安定化しているため置換基Xの効果が減少したためである.この結果は一方の置換基Rを固定した基質の結果(基質V, VI)と一致する.すなわち,R = NMe2の電子供与置換体では炭素陽イオンを安定化するためρπ+値は負の小さな値になり,R = CF3の電子求引置換体では安定化がないためρπ+値は大きな変化は見られない.固定置換基を90°回転させた基質VIIでの結果とも一致している.NMe2置換基を90°回転させると共役は三重結合までで反応中心には届かない.しかしながら,三重結合のもう一つのπ電子は反応中心の炭素陽イオンと共鳴可能であるので安定化の変動は小さいことで説明可能である.この置換基効果の変化は交差共役の安定性に対する細矢の平均共役長の考え [9,10]と一致する.一方,両端に置換基を持つ基質IVのρ値が基質Iの2倍弱の値を示していることは非常に興味が持たれる.電子供与基の置換基はρπ+値を変化させ,電子求引基の置換基はρπ+値に大きな変化を示さない上記の結果から,Xの二置換体IVでは折れ曲がった相関が推定されるが,相関係数は他の系と同程度であり,3つのρ値すべてが大きく変化している.

Table 1.  The results of LSFE analyses for substates I-VII

基質IとIIIは置換基Xの位置が異なるが,3つのρ値とも非常によく似た値を示すことから,この骨格に関する限り反応中心と置換基との配向は置換基の効果にはほとんど関係なく,反応中心と置換基の間の結合の種類と数によると推定される.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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