Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Analysis of the Hydration Site for Coagulation Factor Xa using Grid Inhomogeneous Solvation Theory
Hiroyuki SATOAzuma MATSUURA
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2016 Volume 15 Issue 3 Pages 74-76

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Abstract

The hydration structure in the active site of human coagulation factor Xa (fXa) was investigated from the viewpoint of excess free energy. Water distribution in the active site of fXa was calculated using partly constrained molecular dynamics (MD) simulation. Then the free energy of the distribution was evaluated using grid inhomogeneous solvation theory (GIST). The analyzed excess free energy shows excellent correlation to the experimental binding affinity of known ligands only if the side chain fluctuation of the active site of fXa was taken into account. This result indicates that the side chain fluctuation generated by partly constrained MD has an important role for identifying the appropriate hydration structure, and that GIST in combination with partly constrained MD provides useful information for assessing the protein-ligand binding affinity.

1 研究目的

近年,京などに代表される超並列計算機の普及に伴い,分子シミュレーションによる創薬の研究が盛んになってきた.中でもタンパク質の構造データから,薬の候補となる化合物(リガンド)を設計する技術は,中心的な研究分野の一つである.リガンドの設計に際して重要となるファクターは,設計リガンドとタンパク質との結合活性の強さであるが,これまでの研究結果から,タンパク質とリガンドとの結合活性には,タンパク質周囲の水和サイトが大きく影響すると考えられている.タンパク質周囲の水和サイトは,タンパク質を拘束したMD計算を用いて,様々なリガンドの結合活性に対する影響が解析され,実験値と整合性のある結果が得られてきた.しかし血液凝固因子タンパク質Xa (fXa)とリガンドRDR, RRR [1]については,水和サイトの解析結果とリガンド結合活性の実験値との整合が取れないことが報告されている [2].今回我々は,側鎖の拘束を緩和した部分拘束MD計算を実施し,予測されたfXaの水和サイトが,従来計算により予測される水和サイトからどの様に変化するか調査した.またバルクの状態にある水に対する,fXaの水和サイトに存在する水の過剰自由エネルギーを,grid inhomogeneous solvation theory (GIST) [3]を用いて評価し,リガンドの結合活性に対する水和サイトの影響を調査した.

2 方法

fXaとリガンドの共結晶構造PDBデータには1NFU (リガンド:RRP),1NFY (同:RTR),1NFX (同:RDR),1NFW (同:RRR)を用いた(Figure 1).従来のタンパク質を拘束したMD計算に加え,リガンドから5Å以内のアミノ酸残基の拘束を外した,部分拘束MD計算を実施することで,水和サイトを導出した.MDは室温・1気圧でのNPTアンサンブルでの計算を,時間刻み2 fsで10 ns実施した.ここで圧力制御にはParrinello-Rahman 法を用い,タンパク質の力場にはAmber99SB-ILDN-GORDを,水の力場にはTIP3Pを,リガンドの力場にはGeneral amber force field (GAFF)を用いた.MD計算のプログラムにはGromacs v4.6.5を用いた.水和サイトの過剰自由エネルギーは,MDのユニットセルをgridサイズ0.5Åで分割したvoxel空間について,GISTで評価した.GISTによるエントロピー計算にはnearest neighbor法 [4]を用いた.

Figure 1.

 Structural formula of (a) RRP, (b) RTR, (c) RDR and (d) RRR.

3 結果と考察

解析に用いた4種類のリガンドは,いずれもスルホンアミド構造を持ち,分子サイズも結合ポーズも類似している.リガンド近傍の水和サイトの過剰自由エネルギーは結合活性と相関すると考えられる [2]ことから,リガンド中心からx軸方向,y軸方向,z軸方向にそれぞれ10Å以内の範囲に存在するvoxel空間について,水和サイトの過剰自由エネルギーの和ΔG を求め,実測の結合活性との相関を調べた(Figure 2).ただしΔG は,holo体と水のMD結果による過剰自由エネルギーΔGholo と,リガンドと水のMD結果による過剰自由エネルギーΔGlig との差 (ΔGholoΔGlig) とした.Figure 2から,従来のタンパク質を拘束したMDの軌跡から求めたΔG は,期待された相関からRRRのみ15 kcal/mol以上外れるのに対し,部分拘束MDの軌跡から求めたΔG は,実測の結合活性との相関がR2=0.91 と,大幅に改善されることが分かる. RRRと他のリガンドとの大きな違いは,fXaのS1ポケット [1]に結合する部位が,RRRではクロロチオフェンであるのに対し,他のリガンドではクロロベンゾチオフェンになっている点である.そのため結合ポケット内のRRRの水和サイトは,他のリガンドの水和サイトに比べて空間が広く,取り得る構造の多様性が異なると考えられるが,従来のタンパク質を拘束したMDでは側鎖の動きが制限されるため,水和サイトは多様な構造を取り得ない.実際に,従来のMDと部分拘束MDによる過剰自由エネルギー分布とを比較した結果をFigure 3に示す.Figure 3の赤丸内を見ると,Figure 3 (a)で1つにまとまっていた分布が,Figure 3 (b)では2つに分かれており,両者のS1ポケット近傍での分布構造が異なることが分かる.部分拘束MDでは結合ポケットの側鎖の動きが考慮されるため,従来のMDに比べて適切な分布構造が得られ,実測の結合活性との相関の改善に繋がったと考えられる.

Figure 2.

 Relationship between experimental binding affinity and excess free energy ∆G evaluated using (a) constrained MD, and (b) partly constrained MD.

Figure 3.

 Contour of excess free energy of hydration (red) evaluated using (a) constrained MD, and (b) partly constrained MD. Blue surface model shows fXa and stick model shows ligand RRR. Isovalue of the contour is 0.24 kcal/mol/Å3. Red circle shows the hydration site in the vicinity of S1 pocket of fXa.

以上の結果から,タンパク質周囲の水和サイトの過剰自由エネルギーをGISTにより解析し,リガンドの結合活性と比較するためには,従来のタンパク質拘束MDは不十分であり,タンパク質側鎖の動きを考慮できる部分拘束MDが必要だと考えられる.

References
 
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