Journal of Computer Chemistry, Japan
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Foreword
Computational Chemistry Cooperation Cource in Toyama High School
Nozomu UCHIDA
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2016 Volume 15 Issue 3 Pages A39

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2016年の春の年会で長嶋雲兵先生に声をかけられ,本間善夫先生の計算化学連携講座にご協力させて頂けることになった.この連携講座ではSSH(Super Science High school)の高校生に計算化学を体験させるのだという.筆者が以前,長岡技科大分子科学サマースクールを開催(長嶋先生が筆者をけしかけてやらせた)し,高校の先生や高校生に計算機支援化学システムCACheの講習会を行っていたことからのお声がけだった.

仲間に入れて頂いた段階では具体的なことがあまり決まっておらず,使うソフトウエアも使うコンピュータも未定だった.会場となる都立戸山高等学校にはPC室はあるのだが,利用には厳しい制限が付けられており,ソフトウエアのインストールは出来ないという.当初はSSHで購入した数台のPCに20名ほどの高校生がとりつくことが想定されていたが,筆者は,それでは効率が悪くPCに触れる生徒と触れない生徒で大きな格差が生じてしまうことを危惧し,弊学の学生実験で行っている方法を提案した.千田範夫氏が開発を続けている分子計算支援システムWinmostar(WM)は,WM単体でもMOPAC Ver.6が実装されており,非常に使いやすいので講習会に向いていること,USBメモリにインストールすれば,PC本体に痕跡を残すことが無いこと,などからWMをインストールしたUSBメモリとPCを人数分用意し,講座終了後はUSBメモリを持ち帰って貰うというものである(最近の高校生は自前のPCを持っている子が多い).

戸山高校の田中義靖先生のご尽力によりPCは確保されたが,問題はUSBメモリだった.購入する予算が無いのだ(何だってー?!).当初は何とか安いUSBメモリを購入し,講座終了後は回収して使い回す事になりそうだったが,ここで(株)クロスアビリティの千田範夫氏が男気を見せて下さり,WMをインストールしたUSBメモリをクロスアビリティとしてご提供下さる事になった.これで生徒達にお土産を持たせられる.

テキストは,筆者が学生実験で使用しているものに高校生向けに手を入れ,(株)ヒューリンクスの田島澄恵先生に高校生に解りやすいように更に手を加えて頂き,印刷の運びとなった(カラーだ!!).

計算化学連携講座(パイロット版)の日程はこの原稿書いている本日の二日後(9月17日).当日は講演をする日大の奥山克彦先生,WMをインストールしたUSBメモリを提供して下さる千田氏,及び実習のインストラクターをする田島先生と筆者(+α?)が戸山高校に乗り込むことになっている.

話は変わるが,現在の高校の化学について鑑みてみよう.筆者は入試問題を作る関係上,高校の化学の教科書や,受験参考書を見ることがある.高校の化学の原子構造では,電子のK殻,L殻,M殻で話が終わっており,s軌道,p軌道は出てこない(軌道という単語はタブー).量子化学的な内容は難しすぎるという理由で教えてはいけないことになっており,結果的に不自然な説明や虚偽すれすれの記述がある.これでは化学は理解不能な暗記科目となり,ますます敬遠されることになるだろう(筆者の高校時代[共通一次試験導入前夜]の化学では,s軌道,p軌道,積み上げ原理,長岡半太郎の原子モデルなどが出ていた).この連携講座のようなものをきっかけに化学の真の姿に気づく高校生が増えれば,もう少しまともな化学教育が出来るようになるのかもしれない.

 
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