Journal of Computer Chemistry, Japan
Online ISSN : 1347-3824
Print ISSN : 1347-1767
ISSN-L : 1347-1767
ハイライト
電子を描く(7) ― Z 軸を含む平面節面による整理
時田 澄男
著者情報
ジャーナル フリー HTML
電子付録

2016 年 15 巻 4 号 p. A47-A50

詳細
Abstract

水素原子の波動方程式を解いて得られる極座標で表される原子軌道を実数関数化し,球殻状の節面を持たない軌道の平方を,ガラスブロック内に実3次元で彫刻した.Z 軸を含む平面節面の規則的な変化が観察できた.

1 はじめに

前回,極座標(動径波動関数と球面調和関数の積)で表される 1s − 6 h 軌道における円錐面節面の現れ方を調べた [1] .今回は,これら複素関数を含む軌道を実数関数化した後に可視化し,軌道の形状や節面の現れ方を調べる.

2 可視化結果

極座標で表される3d 軌道(主量子数 n = 3,方位量子数 l = 2,磁気量子数 m = −2, −1, 0, 1, 2)は5種あるが,それらの平方|χ32m|2は3種の図で表される(電子を描く(5) の Figure 1) [2]. これらのうち,磁気量子数 m の値が0でないものは,正負のペア(χnl+mχnlm)を組み合わせる(1 次結合をとる)と,実関数のペアが生じる.その過程を表す数式の実例は,前々回の補足資料(電子付録)に示した [3].これら2種の実関数のペアは,同じ形で方向の異なる4種のd 軌道である(電子を描く(5) の Figure 3) [2].磁気量子数 m の値が0であるものも含めると,よく知られた5種の d 軌道の存在が理解できる.

Figure 1.

 (a) Probability density distribution in the 3-dimensional representation of the squares of hydrogen atomic orbitals observed through y axis. Glass size: 4 x 4 x 4 cm. (b) Schematic representation of the planar (orange) and conical (blue) nodes symmetrical about z axis.

Figure 2.

 (a) Probability density distribution in the 3-dimensional representation of the squares of hydrogen atomic orbitals observed through z axis. Glass size: 4 x 4 x 4 cm. (b) Schematic representation of the planar nodes containing z axis.

Figure 3.

 Isosurfaces of (a) the squares of hydrogen χnlm and (b) real functionalized atomic orbitals.

今回は,s 軌道(n = 1)から h 軌道(n = 6)までの球殻状節面を持たないすべての軌道を実関数で表した軌道の平方(電子を見出す確率)について,実3次元ガラス内彫刻 [3] による可視化を試みた.

可視化の結果をFigure 1Figure 2に示す.

Figure 1 (a) は,軌道を Y 軸方向から眺めたもので,Z 軸まわりに円筒対称な円錐面および平面の節面が,電子の存在確率の少ないところ,つまり,暗部として観察できる.Figure 1 (b) に,これらの節面のかたちを,模式的に示した.節面は,すべて,原点(原子核の位置)を通る.図では,それらの数が分かり易いように,上下にずらして描いてある.Figure 1 (b) は,前回(電子を描く(6) の Figure 3) [1]と同じ図である.極座標で表される軌道の実数化の過程では,Z 軸を含む平面節面が増加するだけなので,Z 軸まわりに円筒対称な,円錐面および平面の節面の形状には変化がないためである.

Z 軸まわりに円筒対称な,円錐面および平面の節面は,各々のペアについて,同じ形状となる.Figure 1 (a) において,磁気量子数 m の値は,左右対称に変化している.Figure 1 (b)Z 軸まわりに円筒対称な節面の図を左右反転させたものが,Figure 1 (a) の左半分に対応している.

Figure 2 (a) は,軌道を Z 軸方向から眺めたもので.Z 軸を含む平面節面が,電子の存在確率の少ないところ,つまり,暗部として観察できる.Figure 2 (b) に,これらの節面のかたちを,模式的に示した.実数関数化された原子軌道に含まれる節面の数については,電子を描く(4) の Table 1ですでにとりまとめた [4].同じものを,Table 1 として再掲する.Z 軸を含む平面節面の数は,磁気量子数の絶対値 |m| 個に等しい.Figure 2 (a) と2 (b) では,この節面が左右対称に位置しており,対称の関係にあるペアは,Z 軸まわりに互いに 90°/|m| の角度だけ回転した関係にある.

Table 1. Nodes in atomic orbitals.
node type number of nodes
[A] Spherical nodes n − l – 1
[B] Planar nodes containing z axis | m |
[C] Planar and conical nodes symmetrical about z axis l − | m |
total n – 1

Figure 3に,極座標表示(複素関数を含む数式)の等値曲面(a)と,実数関数化された原子軌道の等値曲面(b:Figure 1 (a) の約半分)を対照して示した.前回 [1],前者は極めて単純で規則的であるが,後者はカオスに満ちているという指摘があると記した.しかし,実関数化で生じる 一見複雑な原子軌道のかたちも,Z 軸を含む平面節面で整理することによって統一的に理解できるのである [5].

3 おわりに

水素原子の原子軌道における電子の存在確率を,ガラスブロック内に彫刻した [6].Z 軸まわりに円筒対称な節面は,複素関数を含む軌道の平方と同じ位置に観察できた.実数関数化で生じるZ 軸を含む平面節面で整理することによって,軌道のかたちの統一的理解が促進できた.

参考文献
 
© 2016 日本コンピュータ化学会
feedback
Top