Journal of Computer Chemistry, Japan
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巻頭言
新しい物質材料科学の幕開け近し
長嶋 雲兵
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2016 年 15 巻 4 号 p. A41

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日本コンピュータ化学会は,2002年1月1日より,日本化学プログラム交換機構(JCPE)と化学ソフトウエア学会(CSSJ)が合併して,新たに日本コンピュ-タ化学会(SCCJ)として新しい歩みを始めることになりました.

細矢治夫先生が会長,JCPE代表の平野恒夫先生が名誉会長に選出され,2人3脚のかたちで学会の運用を行って来ました.本学会の事業は,春秋2回の研究発表会と論文誌Journal of Computer Chemistry, Japan(JCCJ)の発行が主なものです.

春の研究集会は,従来のJCPEが開いていた計算化学シンポジウムを踏襲し,計算化学を用いた研究成果発表の場であり,秋はCSSJが行っていたソフトウエアのデモを中心とする研究成果発表の場であります.秋の学会は,自作のプログラムのデモと5分のプレゼンテーションが目玉であり,高校生と高校教師の参加を促すために,土日に開催される学会です.この10年で変わったことは,JCCJ編集室の英語論文誌Journal of Computer Chemistry, Japan-International Edition (JCCJIE) の発行と秋の学会と同時に開催される科学コミュニケーション室主催「一般,特に高校生向けに学会の一般公開と科学イベント」です.ここでは,計算化学の面白さを一般の方々に広く知っていただけるようなデモ展示や講演会などを実施しています.さらには,高校生により計算化学と親しんでもらおうと計算化学の出前セミナーも行われており,新規物質科学にとって計算機によるComputer Aided Engineering: (CAE)の考え方からちょっとした計算化学ツールの利用法までを隙間無く普及宣伝して,計算化学の利用を広げています.ただ,ここ数年,高校教師の参加は無く,参加者の年齢が高くなっています.

実は今,計算化学は一つの新しい局面を迎えています.その原因は京に代表されるスーパーコンピュータの出現です.もう一つは,新しいアルゴリズムの出現です.

1929年にDiracが物質に関する理論は既にできたが個々の問題は解けないとの予言をしています.具体的には「物理学のほとんどと,化学のすべての数学的理論に必要な基礎理論はこのように今では完全に分かっている.困難は,ただ,これらの法則を厳密に適用すると複雑すぎて解ける望みのない方程式に行きついてしまうことにある.したがって,量子力学を応用するための実用的な近似方法を発展させ,過度な計算を行うことなしに,複雑な原子集合体の主だった性質を説明できるようになることが望ましい.」(P. Dirac, Proc.Royal Soc.(London), A123, 714 (1929)) 一部藤永茂による訳(分子軌道法,岩波書店1980).

近似解法もいろいろなレベルで開発されていますが,最近限りなく厳密解に近づく解法が開発されました.(H. Nakatsuji, "Discovery of a General Method of Solving the Schrödinger and Dirac Equations That Opens a Way to Accurately Predictive Quantum Chemistry", Accounts of Chemical Research, 45 1480 (2012))新しい理論とスーパーコンピュータが全く新しい時代を作っていく予感がします.

 
© 2016 日本コンピュータ化学会
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