Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
分子動力学シミュレーションによる基板の極性がZnO結晶成長プロセスに与える影響の解明
川岸 俊介許 競翔大谷 優介西松 毅樋口 祐次尾澤 伸樹久保 百司
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2016 年 15 巻 6 号 p. 244-245

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Abstract

We examine the effect of polarity of a ZnO substrate on the crystal growth process in physical vapor deposition via molecular dynamics simulation. First, we irradiate ZnO molecules at a velocity of 900 m/s on O-polar, Zn-polar, and nonpolar ZnO substrates and evaluate the crystallinity of the formed ZnO thin film. In the formed thin films on the O-polar and Zn-polar substrates, 8-membered rings are partly observed, while a normal ZnO crystal consists of only 6-membered rings. Thus, the formed thin films on the O-polar and Zn-polar substrates have O and Zn atomic defects. On the other hand, the formed thin film on the nonpolar substrate consists of only 6-membered rings and does not have the atomic defects. We reveal the crystal growth process of ZnO thin films at atomic scale and find that high-quality thin film is formed on the nonpolar substrate.

1 目的

物理蒸着(PVD: Physical Vapor Deposition)等で作製されるZnO薄膜は3.2 eVと大きいバンドギャップを持つ半導体であるため,発光デバイスや電子デバイスに広く応用されている.ZnO薄膜の光学特性は結晶品質に大きく依存し [1],結晶品質は基板の極性に大きく依存する.実験では無極性基板上に形成されたZnO薄膜は極性基板上より高品質となることが示されている [2].しかし,原子スケールにおける成長過程を実験的に観察することは非常に困難であるためそのメカニズムは分かっていない.本研究では分子動力学法に基づく結晶成長シミュレーションにより,基板の極性がZnO薄膜の結晶品質に与える影響を検討した.

2 計算方法

本研究では, ReaxFF力場を用いた独自開発の分子動力学プログラムLASKYOを用いた.パラメータはRaymandらが決定したものを用いた [3].基板は温度700 Kで,ZnO (000–1)(O極性面),(0001)(Zn極性面),(11–20)(無極性面)を用いた.ZnOの照射速度はZnOの沸点2360度に対応する900 m/sとした.照射間隔は照射された原子の緩和時間を考慮して1.5 psとした.

3 結果・考察

基板の極性がZnO薄膜の結晶品質に与える影響を明らかにするためO極性,Zn極性,無極性基板上にZnO分子500個を連続的に照射する結晶成長シミュレーションを行った(Figure 1).照射されたZnO分子が基板上に6員環構造を形成しながら薄膜が成長し,全ての基板上において4層程度のZnO薄膜が形成された.O極性基板上では一部の6員環構造が壊れ,薄膜表面構造が乱れた.加えてO2分子が生成し表面から脱離する挙動が見られた(Figure 1 (a)).Zn極性基板上においても一部の6員環構造が壊れ,薄膜表面構造が乱れていた(Figure 1 (b)).一方で,無極性基板上では他の基板と比較して,きれいな6員環構造から成る薄膜が形成された(Figure 1 (c)).成長した薄膜の結晶性を評価するために,1,2,3層目の成長層におけるZn原子欠陥とO原子欠陥の合計の数を調べた(Figure 2).生成した欠陥の数は無極性面,Zn極性面,O極性面の順に多く,無極性基板上に形成した薄膜に関しては生成した欠陥はなかった.これはO極性面,Zn極性面,無極性面の順で結晶性が良いという実験結果に一致する [2].この原因を明らかにするため,成長層一層目の構造を解析した(Figure 3).O極性基板上では,一部8員環構造が形成された(Figure 3 (a)).薄膜の成長過程を観察すると,照射されたZnOのO原子が基板上のO原子と結合することでO2分子が生成し,表面から脱離する挙動が見られている.このためO原子が不足し,8員環が形成することで,欠陥が生成したと考えられる.Zn極性基板上においても4員環と8員環構造が薄膜の一部に形成した(Figure 3 (b)).これは両側から薄膜が成長したことで粒界部分で格子不整合が起こり,4員環と8員環構造が薄膜中に形成したと考えられる.無極性基板上では6員環構造のみ形成され,欠陥は見られない(Figure 3 (c)).以上より分子動力学シミュレーションを用いてZnO基板の極性がZnO薄膜の成長に与える影響を明らかにした.

Figure 1.

 Final structures of the ZnO thin films on (a) O-polar, (b) Zn-polar, and (c) nonpolar substrates at 750 ps.

Figure 2.

 The number of atomic defects in the O-polar, Zn-polar, and nonpolar substrates.

Figure 3.

 Cross sections of the 1st layer in (a) O-polar, (b) Zn-polar, and (c) nonpolar substrates.

4 結論

本研究ではZnO基板の極性がどのようにZnO薄膜の結晶品質を決めるかを解明するため,分子動力学法を用いて結晶成長シミュレーションを行った.通常のZnO結晶は6員環構造で構成されるのに対し,O極性,Zn極性基板上に成長した薄膜にはO2の発生や格子不整合により8員環構造が形成し,欠陥を有することが分かった.一方で無極性基板上では6員環構造のみで構成された薄膜が形成し,成長した薄膜は高い結晶性を有することがわかった.

参考文献
 
© 2017 日本コンピュータ化学会
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