2016 年 15 巻 6 号 p. 211-212
We estimated surface energies of all flat surfaces of forsterite within the framework of density functional theory. We found that surface energy of (120) surface is the lowest and those of (010), (130) and (112) surfaces are followed subsequently. Morphology of forsterite at 0 K is predicted. Calculated Si K-edge XANES spectra of silicon in forsterite are consistent with experiments.
固体惑星をつくる元素(Si, Mg, Feなど)の酸化物は分子雲・原子惑星系をかたちつくる重要な物質であり,それらの生成過程の詳細を明らかにすることは天体の進化過程の理解と直結している.今までこうした研究は天体観測や宇宙からの飛来物である隕石の分析が主な手法であった.しかし,これらの手法から得られる情報は限られており,部分的なストーリー作りにしか適用できない.現在実験室で鉱物の生成過程,有機物の成長過程を調べる研究が進行している.さらに小惑星探査機"はやぶさ”に代表されるサンプルリターン計画も進行中であることは周知のとおりである.一方理論計算は得られた結果の解釈およびモデル構築,さらに結果の予測に欠かせない.本研究では,原始惑星系において重要な鉱物の1つと考えられているForsterite (Mg2SiO4)をターゲットとし,基礎情報を集めることを目的として,その表面エネルギー,およびSi K-edgeのXANESスペクトルについて密度汎関数法による理論計算を行った.
表面エネルギーの計算には第一原理計算コードVASP [1]を用い全ての原子に対し構造最適化を行った.交換相関汎関数にはGGA-PBE [2]を使用し,カットオフエネルギーは900 eVとした.k-point数は3 × 3 × 1とした.各清浄表面の構造はスラブ構造で近似し,スラブ間に約15Åの真空部分を挿入した.スラブ構造はMaterial Studioを用いて構築し,必要に応じて上下面で対称になるようにMgを再配置した.スラブの厚みを徐々に増しながら計算を行い,表面エネルギーの変化が1%以内に収束するまでサイズを拡大した.表面エネルギーγは次式によって算出した.
ここでnはレイヤー数,Ebulkは単位レイヤーにおけるバルクのエネルギー,Es(n)slabはn レイヤーにおけるスラブモデルのエネルギー,Aは表面単位セルの表面積である.PBC理論 [3,4,5]に従い,鉱物の表面はF (Flat)面,S (Stepped)面,K (Kinked)面に分類することができる.今回Hart [6]により定義された全てのF面に対し,表面エネルギーを算出した.またForsteriteの結晶構造を用いてSi K-edgeのXANES計算を行った.XANES計算にはQuantum Espresso [7]を用いた.交換相関汎関数にはGGA-PBEを使用し,カットオフエネルギーは400 eVとした.k-point数は3 × 3 × 3とした.
表面エネルギーの結果をTable 1に示す.最安定表面は (120)面となり,以前の報告例と異なる.他のいくつかの表面については順序が異なり,表面エネルギーが計算手法及び表面の構築方法に対し敏感な物理量であることがわかる.また先行研究で検討されていなかった(130), (112)面の表面エネルギーは(010)面の次に小さいことがわかった.
得られた表面エネルギーを用いて作成したForsterite結晶の平衡形をFigure 1に示す.先行研究 [8,9,10]に比べ我々の結果では表面エネルギーを反映し(112)面の面積が大きくなっている.

Equilibrium shape of forsterite at 0 K estimated from results of the present work. Miller indexes of surfaces are also indicated.
Figure 2にForsteriteのSi端によるXANESスペクトルを示す.Bulkでは5 eV, 12 eV, 20 eV付近に3つのおおきなピークが見られ,実験値 [11]をよく再現することができた.

Theoretical XANES spectra of Forsterite at the Si K-edge. Crystal structure of Forsterite is also shown.
以上,第一原理計算によりモデル構築を行うことで凝縮層に対するXANESスペクトルを定量的に再現できることがわかった.
本研究は文部科学省科研費(No. 25108003)の支援を受けておこなわれた.