Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
Na2O-K2O-SiO2 系ガラスにおける混合アルカリ効果の考察
山本 優也澤口 直哉佐々木 眞
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2017 年 16 巻 4 号 p. 98-101

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Abstract

The mechanism of the mixed alkali effect of 0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 glasses was studied by using the molecular dynamics (MD) simulation. MD simulations of this work reproduced the mixed alkali effect. In addition, the tendency of molar volume with temperature change by this work was reproduced in the experimental tendency. The mixing of alkali was independent to the network structure of Si and O. The free volume in the glass systems indicated that high condensed packing occurred by alkali mixing. The results of 39K133KSi3O7 glass showed that the mass difference from one alkali metal ion decreased the diffusion of the other alkali metal ion. The mixed alkali effect was considered to relate to both the size- and the mass-differences of the coexisting alkali metal ions.

1 研究背景

アルカリ金属酸化物を二種類以上混合した酸化物ガラスにおいてアルカリ金属イオンの移動度が減少する現象を混合アルカリ効果と呼ぶ [1].この混合アルカリ効果は実際のガラス材料の製造ではガラスの粘性を増加させ,また電気伝導度を減少させる効果を有する.しかしながら,混合アルカリ効果のメカニズムは未だ不明な点が多く,これを解明していくことはガラス材料の設計開発に役立つと考えられる.混合アルカリ効果のメカニズムはこれまでも分子動力学(Molecular Dynamics, MD) シミュレーションによって研究されてきた.Balasubramanian and Rao [2] やHabasaki et al. [3] は混合アルカリ効果はアルカリ金属イオンのサイズ差によって生じると結論付けている.しかしながら,これまでの解析では,ガラスモデルの局所的な領域の短時間の挙動の分析に基づく解釈に留まり,アルカリ金属イオンの自己拡散係数のような系全体から得られる情報に基づく考察は十分に行われていない.さらに,混合アルカリ効果はアルカリ金属イオンのサイズ差に加え質量差も関与しているという報告もある [4] .そこで本研究では実験報告が多い0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 系ガラスを対象とし,MD シミュレーションにより求めたアルカリ金属イオンの自己拡散係数を用いて,混合アルカリ効果のメカニズムについて考察した.

2 MD シミュレーションの計算条件

原子間相互作用にはSakuma and Kawamura [5] が使用した酸化物結晶系への適用性が高い,Coulomb 力項,近接反発力項,van der Waals 力項及び共有結合力項からなる関数を適用した.また,原子間相互作用の各パラメータは我々が先行研究で用いた設定方法 [6] に基づき決定した.

ソフトウェアはMXDORTO [7] を使用した.はじめに全辺約4.5 nm の立方体MD セル中に5400粒子 (N) を疑似乱数を用いて決めた座標に配置し,NPT アンサンブルを適用して温度(T) 3000 K,圧力(P) 0.1 MPa 下で融体の状態のシミュレーションを行った.約700万ステップ 間で300 K まで段階的に冷却しガラス状態を得た後,ガラスモデルに対し30 万ステップ間の解析計算を行った.混合アルカリ効果に及ぼすアルカリ金属イオンの質量の影響を考察するために,Na-39K 系に加えてNa-133K 系と39K133KSi3O7 系ガラスについても計算した.ここで,133Kは質量のみを変更し,原子間相互作用は同一のものを適用した仮想的なK+ イオンである.

3 結果と考察

各温度における0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 系ガラス/融体のモル体積をFigure 1 に示す.屈曲点よりガラス転移温度を見積もると,x が小さい組成では約1800 K-2000 K であり,x が大きい組成では2000 K∼2400 K であった.これはサイズの大きいアルカリ金属イオンの混合比の増加に伴いガラス転移温度が増加する実験報告 [8] と傾向が一致している.一方で,その値を文献値 [8,9,10] と比べるとモル体積は大きく,ガラス転移温度は高くなった.先行研究で,モル体積に原子間相互作用をチューニングして再現するとガラスのネットワーク構造に歪みが出現することを報告した [6].よって,本研究ではチューニングを行わなかった.以降では1200 K∼700 Kのシミュレーション結果をガラス状態として解析に用いた.

Figure 1.

 Molar volume of 0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 glasses/melts. Stars, pluses, crosses, diamonds, squares, triangles and circles show results of x = 0, 0.2, 0.4, 0.5, 0.6, 0.8 and 1, respectively.

二体相関関数の解析より0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 ガラス(900 K)中で形成されるSiO4 四面体構造におけるSi-O, O-O 及びSi-Si 間の第一近接原子間距離はx に関わらず,それぞれ約0.164 nm, 0.270 nm 及び 0.322 nm であった.一方で,二体相関関数よりNa-O, K-O, Na-Na, K-K およびNa-K の最近接距離は,x の増加に伴い短距離側へシフトすることが示された.このことから混合アルカリ効果はSi-O ネットワーク構造とは関係なく生じると考えられる.

共存するアルカリ金属イオンのサイズ差の効果を確認するためにガラス中に存在する隙間空間について検討した.イオンを球状と考え,MDセルの体積, VMDcellからMD セル中のアルカリ金属イオンと酸化物イオンすべての体積VNa, VK, VO (式(1)) 及びSiO4 ユニットを正四面体とした場合の体積, VSiO4 (式(2)) を引いた値を自由体積, Vfreeとして式(3) のように定義した.Nkkイオンの粒子数である.   

V k = N k 4 3 π r k 3
(1)   
V SiO 4 = N Si 2 12 d O O 3
(2)
  
V free = V MDcell V Na V K V O V SiO 4
(3)

ここで,VOVSiO4 のオーバーラップはx に依らないので便宜的に無視している.すべてのx に対しVSiO4 を求める際のO-O 間距離, dO-OはPCF から得られた0.270 nm を使用した.各イオンペア間の積算配位数の結果よりSiの第一近接の配位数はすべてのx で4 配位でありO, Na 及びKは5∼6 配位構造を示したので,各イオンの体積, VNa, K, O を求める際には6 配位のShannon [11] のイオン半径の値, rkを用いた.Figure 2 に900 K における0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 ガラス中のVfreeを示す.Na とK が理想混合する場合,Vfreexに対してFigure 2 に示した破線上の値を取ると考えられる.シミュレーションから求めたVfree はこの破線の値より小さくなった.これはこれまでも報告されてきたように,異なるサイズのアルカリ金属イオンを混合すると理想混合よりもパッキング性がよくなることを示している.これは,両イオンについて拡散可能なスペースが減少することを意味しており,これが混合アルカリ効果に関連すると考えられる.

Figure 2.

 Free volume of 0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 glasses at 900 K. Dashed line shows ideal mixing.

Figure 3 にNa-39K 系とNa-133K 系におけるNa+ イオンとK+イオンの自己拡散係数, DNa, DK を示す.どの温度においても,またNa-39K 系とNa-133K 系のいずれにおいても,DNaDK はどちらも異種アルカリ金属イオンの混合により減少した.すなわち混合アルカリ効果が表れていると考えられる.原子量の異なるK+ イオンの拡散を39K133KSi3O7 系についてもMD 計算を行い検証した.その結果をFigure 4 に示した.各温度において39K133KSi3O7 中の39K と133K の拡散係数の値は39K2Si3O7133K2Si3O7 中のK+ イオンの拡散係数値の中間の値を示した.これは,質量の異なるイオンの混合は双方の拡散係数を低下させることを示唆している.しかし,アルカリ金属イオンの質量差は混合アルカリ効果に影響しないという報告もあるため [3],質量差の影響については引き続き検討するつもりである.また,イオンの拡散が活発になる1200 K ではNa-133K 系のDNa がNa-39K 系のDNa よりも小さくなる傾向が見られた.これは対イオンK の質量変化が,サイズが小さいNa の拡散へ影響することを示唆している.今後アルカリ金属イオンの振動解析や拡散の活性化エネルギーを求めるなどして総合的に判断する必要がある.

Figure 3.

 Self-diffusion coefficient of alkali ions in 0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 glasses at 700 K (square), 900 K (triangle) and 1200 K (circle). Dashed and solid lines show the diffusion coefficient of Na+ ions and K+ ions, respectively. Solid and open symbols denote the results of Na-39K and Na-133K system, respectively.

Figure 4.

 Self-diffusion coefficient of K+ ions in 39K2Si3O7, 133K2Si3O7 and 39K133KSi3O7 glasses. Circles, triangles, squares and diamonds show the self-diffusion coefficient of 39K in 39K133KSi3O7,133K in 39K133KSi3O7,39K in 39K2Si3O7 and 133K in 133K2Si3O7, respectively.

4 まとめ

MD シミュレーションを用いて,0.25{xK2O-(1−x) Na2O}-0.75SiO2 ガラスの混合アルカリ効果のメカニズムを調査した.本研究で適用した原子間相互作用は混合アルカリ効果を再現可能なことが分かった.アルカリ金属イオンのサイズ差に加え,質量差も混合アルカリ効果に関連していると考えられる.

参考文献
 
© 2017 日本コンピュータ化学会
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