2017 Volume 16 Issue 4 Pages 81-82
We analyze the relativistic effects of the hyperfine coupling constant (HFCC) by using the solutions of the Dirac and Schrödinger equations of Hydrogen-like atoms. We find that the relativistic effects of HFCC of the ground states of the Hydrogen-like atoms (Z = 30, 40) are about 8% and 15%, respectively.
重原子系の超微細結合定数(HFCC)を高精度に求めるためには,相対論法を用いる必要があることが知られている.また,比較的軽い元素(3d遷移金属)を含む錯体でも,4成分法と非相対論法のHFCCの差(相対論効果)が30%以上になる場合がある [1].
HFCCにおける相対論効果の寄与は,多電子系で数値的に評価される場合がほとんどであり,1電子系を使って解析的に議論している例は少ない.
本研究では,4成分相対論における原子のHFCCの等方性項を,文献 [2]と異なる方法で導出した.また,その表式を用いて,1電子系の相対論効果の解析を行った.
超微細相互作用に由来する1次摂動エネルギーEは,式(1)で表せる.
| (1) |
cは光速,eは電荷素量,Ψ4cは非摂動Diracハミルトニアンの固有関数,ϕL, ϕSはΨ4cのlarge, small成分,αはDirac行列,ANは原子核由来のベクトルポテンシャル,σはPauli行列である.
系の中心に球対称のポテンシャルが存在し,Ψ4cを動径部分と角度部分に変数分離できる場合,式(1) の第1項
| (2) |
| (3) |
式(2)に
| (4) |
μ0は真空の透磁率,tはカルテシアン座標である.簡単のため,σzμzに比例する項のみを抜き出し,更に極座標(r, θ, ϕ)に変換する.本研究では等方性項に着目するため,以後,lL = 0とする.
| (5) |
I2は2次の単位行列である.式(4)のσxμx,σyμyの項にも同様の式変形が成り立つ.式(1)の第2項にも,式(1)~(4)と同様の式変形を行い,係数を整理すると式(6)が得られる.
| (6) |
geは電子のg因子,gnは原子核のg因子である.βeはBohr磁子,βnは核磁子,αは微細構造定数,a0はBohr半径,
式(6)から
| (7) |
最終式に負号が現れているが,これはf(rN)の負号と打ち消されるため,式(7)から得られるHFCCの符号は正となる.
Figure 1に,基底状態の水素様原子のHFCCにおける相対論効果を示す.HFCCの相対論効果x(%)は,下式で定義した.
| (8) |

Relativistic effect of Hydrogen-like atom (1s state). The vertical axis, x, is defined by Eq. (8).
aRelは水素様原子のDirac解および式(7)を用いて計算したHFCC, aNRはSchrödinger解およびFermi-contact項の演算子 [4]を用いて計算したHFCCである.HFCCの計算には,文献 [5]の物理定数を使用した.
Figure. 1から,相対論効果(x, ▲)は,Z = 30では8%,Z = 40では15%程度であり,比較的軽い元素でも無視できない相対論効果が現れていることが分かる.また,Zが大きくなると相対論効果は急激に増加しており,Z = 100の 水素様原子のHFCCでは,相対論効果xは298%程度である.
水素原子(Z = 1)のHFCCの計算値の詳細をTable. 1 に示す.電子のg因子に関しては,相対論的量子力学における電子のg因子(ge = 2)を用いた場合と,実験的に求められている電子のg因子(gexp = 2.002 319 304 371 8 (75))を用いた場合とでそれぞれ計算した.またβe中の電子質量には,電子の質量meを用いる場合と,換算質量μを用いる場合を計算している.Table 1から,meやgeをより正しい値であるμ, gexpに置き換えると,実験値からより遠ざかることが分かる.(d)aRelと水素原子のHFCCの実験値(1 420.405 751 766 7 (9) (MHz)) [6]との差は,約0.23%であり,この精度が,相対論的量子力学の精度的限界だと考えられる.実験値との誤差は,QED効果や原子核の構造に由来すると考えられる.励起状態の水素様原子における相対論効果の解析については,別の論文で報告する予定である.
| Physicalconstants | (a) | (b) | (c) | (d) |
| ge, me | ge, μ | gexp, me | gexp, µ | |
| aRel (MHz) | 1421.3 | 1422.0 | 1422.9 | 1423.7 |
| aNR (MHz) | 1421.2 | 1421.9 | 1422.8 | 1423.6 |
本研究は,JST,CREST,及びJSPS科研費(Grant Number 17H03011, 17J02767, 17H02881)の支援を受けて実施された.