Journal of Computer Chemistry, Japan
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巻頭言
“計算史” の過去・現在・未来
本間 善夫
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2017 年 16 巻 4 号 p. A27

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数年前に還暦を過ぎた筆者の“計算史” .指折り加算,九九暗唱,筆算(加減乗除を経て三角対数表・常用対数表含めた関数計算へ),計算尺,手回し計算機,電卓(加減乗除→関数),ポケットコンピュータ,パーソナルコンピュータ(PC;プログラミングから計算ソフトウェア利用へ).私費でのPC購入の時代から今では大学で普通にPCを活用しスパコン・ビッグデータ・AIまで利用可能になってきており,この変化速度に唖然とするばかりである.量子コンピュータに関するニュースが最近増えていることも注目される.計算化学の分野でも小分子の計算に多大な時間を費やした時代から現在では例えば細胞質内のゴッタ煮スープのような分子・生体分子の世界の挙動をフルカラー動画で参照できるまでになった.

胎内におけるヒトの成長は生命誕生以来の歴史をなぞるとも言われるが,“計算史” はスタート時はともかく世代によって異なった道筋を辿るのだろう.“計算史” の背景にある数学史の世界も豊饒であり,古代の多彩な物語や日本の和算,ガロアによる群論誕生裏話など興味が尽きない.

計算科学の成果がもはや日常的なものであることをアピールし,その背景のカガクの世界に関心を持ってもらうべく,本学会ではサイエンスアゴラ出展や秋季年会開催地での公開イベント開催などで多彩な企画を展開してきていることには大きな意味があり,関係各位に深く感謝する次第である.日本における基礎科学の今後が懸念される中,その役割は一層重くなってきていると考える.

科学が当たり前のものとしてより広く受け入れられるためには文理融合の仕掛けも必要と考えており,その意味で2016年サインエスアゴラの出展テーマとしたビッグヒストリーが有効なプラットフォームになればと思っている.138億年前の宇宙誕生から元素・分子・生命の誕生の歴史を辿り,村や諸国の盛衰までなぞって人間社会の在り方まで考えようとするものである.このストーリーに感銘を受けたビル・ゲイツの支援によってビデオ教材が無料で公開されるなど,国内外でビッグヒストリー・プロジェクトが幅広く展開されている.100人近くの参加を得たサイエンスアゴラのトークセッションでは,その日本語テキストを読んだ高校生にも登壇してもらうことができた.拙サイトでも生命誕生に焦点を当てたページを公開するなどしている.

一方,世界中のコンピュータや通信機器などを結ぶインターネットが今やSNSなど百花繚乱となって驚愕するばかりだが,その誕生前にはパソコン通信の時代があり,本学会の源流の1つの化学PC研究会の会誌ではそこでのやり取りも紹介されたことも懐かしく思い出される.なお,パソコン通信における理科・化学分野のやり取りの中で,新潟在住でアクティブなメンバーがいて,その方々の支援を得て2007年に始めたサイエンスカフェにいがたが2017年9月に第100回を迎えたことにも言及しておきたい.地域における継続的な活動も有用と考えたいところである.

公開イベントもサイエンスカフェ,あるいは筆者が執筆参加した書籍群の発刊も,バーチャルの世界から生まれたリアルなできごととも言えよう.

コンピュータも計算科学も,新しい形でリアルとバーチャルを豊かに繋げる存在であり続けることに期待したい.

 
© 2017 日本コンピュータ化学会
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