2017 年 16 巻 5 号 p. 133-134
A simple model of localized electron wave packets, floating and breathing Gaussians with non-orthogonal valence-bond spin-coupling, is demonstrated to produce an accurate high-harmonic generation (HHG) spectrum from an LiH molecule induced by an intense laser pulse. In contrast with the conventional molecular orbital picture in which the Li 2s and H 1s atomic orbitals are strongly mixed in the valence σ bonding orbital, the present calculation indicates that a superposition of independent responses of the electrons reproduces the spectrum in which the contribution of the H 1s electron dominates the characteristic plateau and cut-off of HHG.
近年の時間分解レーザー分光法は, アト秒オーダーの分解能を実現しており, 電子ダイナミクスを反映した信号の解析が期待されている [1]. 特に, 高強度のレーザーパルスに誘起される高次高調波発生 (High Harmonic Generation, HHG)スペクトルは, 分子から放出された電子が周期変動場に駆動されて元の分子へ再衝突し, それがプローブとなって電子波動関数 (Dyson軌道) が検出されるという, いわゆる分子軌道トモグラフィーの可能性が示唆されている [2]. 理論計算では, 広い空間領域で高波数まで考慮する必要があり, 現実的な分子モデルの量子ダイナミクス計算は 未だ発展途上にある.
通常の電子状態計算では, 原子上に固定された原子軌道関数を基底とする. この延長でダイナミクス計算を行う場合には, 時間依存性を展開係数に担わせることが多い. これに対し我々は, 波束中心を浮動させ, 波束幅も可変なGauss型波束を基底とし, 原子価結合理論によりスピン結合させたモデルの可能性を探求している. これまでに, 小分子の基底状態ポテンシャル面を良好な精度で得られること [3], 波束運動の量子化により励起状態も半定量的に得られること [4]を示してきた. 電子波束の準量子的ダイナミクスから計算したHHGスペクトルは, 高調波まで強度を持つ点は高精度計算を再現したが, 平坦領域やカットオフが再現されないという問題が見出された [5]. そこで本研究では, 電子波束を用いて電子運動のポテンシャル面を構成し, その上で量子ダイナミクスを数値的に解く. これにより, 原子価結合法と浮動局在電子波束を用いたポテンシャル面の妥当性を検証する. これが確認されたならば, 局在波束を用いたダイナミクス計算の近似を向上させる手法である コヒーレント状態経路積分法 [6]の適用と改良を推し進めることができる.
電子波動関数は, 空間座標関数とスピン関数の積を反対称化した
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Potential energy curves for Li 2s and H 1s electron wave packet centers and their modulation by the field-dipole interaction at the peaks of the external laser field.
Figure 1は, 外場がないとき(黄色), およびパルス電場強度が最大, 最小のピーク値のとき(紫,水色)の電子ポテンシャル曲線である. 双極子近似の相互作用により, 横軸に沿った直線が加わる形となる. 図が示すように, H 1s電子のポテンシャルでは電場によるポテンシャルの変形により障壁が生じ, 電子はトンネル効果によって外側へ滲み出ることが予想される. 一方, Li 2s電子はポテンシャルの谷が浅く, 電場の変動を直接反映したダイナミクスが予想される. これらは, 座標とその分散の期待値の時間変動の計算結果から確認された.
Figure 2は, 量子ダイナミクス計算から得た双極子期待値の加速度運動のフーリエ変換から計算したHHGスペクトルである. 時間依存配置間相互作用法(TD-CASSCF) による結果 [7] を参照とした. Li 2s電子波束の寄与は低次で支配的だが, 20次程度で減衰してしまうことが見てとれる. 50次近辺のカットオフとそこへ至るプラトーは, H 1s電子波束の寄与によることが明瞭に見られる. 通常の分子軌道法では, Li 2sとH 1sの原子軌道は強く混合してσ分子軌道を形成するので, 上記のような寄与の分割は自明には得られないはずだが, 配置係数の詳細な解析などによって, 対応する描像を検証することが望まれる.
High-harmonic generation spectra computed from the Fourier transforms of dipole acceleration. The TD-CASSCF data is from Ref [7].
本研究は, 科研費挑戦的萌芽研究(26248009), 基盤研究A (2662007)の支援を受けて実施された.